高橋美加子社長の講演から

      2014/10/23

原発事故から2年2ヶ月。絶望の中にこそ希望が隠れている

人が人であるというのは、生き続けようとする。
生命のエネルギーが存在するということ。

生命の近くに生きる女の経営者は地域の要。
いい仕事をして、いい会社を作り、いい経営環境を作る。
「しごと」は「ありがとう」の輪をつくる。

第16回「女性経営者全国交流会in大阪」(2013年6月13・14日木・金 帝国ホテル大阪)に参加しました。記念講演は高橋美加子さん(福島県南相馬市 株式会社「北洋舎クリーニング」代表取締役)。タイトルは「子どもたちを安心して育てられる町に~地域再生は私たちの手で~」でした。講師紹介が終わるや、「私には震災事故の現状をお伝えする役割があるのです」と言われて、地震と津波そして原発事故の映像が流れました。

高橋氏の会社のある南相馬市原町区は、浜地区にあり、福島第一原発から30キロ圏内。2011年3月11日の東日本大震災を境に、原発という人災によって不安と恐怖のどん底に落とされてしまいました。広島、長崎に次いで福島は核の時代を生きることになってしまいました。人災を起こした既存の権威はなんの役にも立たなかったし、効率中心の経済がこの人災をもたらしました。

震災原発事故に高橋社長はどう対処したのか

今まで精魂込めて培ってきた会社、社員、お客様、地域の全てが根底から崩壊してしまいました。津波で家や家族を失った人、小さい子どもを抱えて避難所を転々としている人、20キロ圏内に住んでいたため数時間の間に避難バスに乗せられて連れ出されてしまった人、様々な出来事が30人の従業員の身に降りかかりました。会社は休業届けを出して、従業員の給料を最低限確保しましたが、矛盾だらけのこの国の法律に、はらわたが煮えくり返るほどの強い怒りをおぼえました。その後多くの市民が戻り、銀行も郵便局も一部再開し、町は活気を取り戻しているように見えますが、30キロ圏内には「屋内退避」のうえに「避難準備区域」という言葉が付け加えられており、乳幼児、妊婦、お年寄りなどは先に避難しておくようにとの指示が出て、家族がばらばらに暮らすという状態が続いています。わが社は女性従業員が圧倒的に多いのですが、だんだんと戻ってきました。お金は要らないから仕事をしたいという声も聞かれました。その意味がよく分かります。

価値観の変換

震災前は大手の価格競走にどう対抗しようか、そのことで頭が一杯でした。計算ばかりしていました。しかし震災後、ドーンというあの鈍い水素爆発の音を聞き、五感の全てがストップしてどん底に落とされて以来、大事なことは何なのか、全ての価値観は一変しました。

こんなときでも仕事があれば周りの人たちを笑顔することが出来る。仕事をする場所(会社)はシェルターにもなる。会社は大きいのがいいことではなく、小さい規模であることを嘆くことなど全くないのです。仕事があることは存在感そのものです。仕事があることが幸せ、会社が存続しているだけで幸せという気持ちになりました。

さらに、原子力で電気を作り、経済活動を効率よくすることがいいのだなどと考えないようにしようと思いました。それは心の底からの祈りの叫びです。「原子力で電気を作るのは、もう やめてください!」と。

日本地図で原発のある場所をピンで止めてみてください。事故の影響を免れる地域などないということが分かるはずです。人間の叡智は、全ての人が、命を輝かせて生きられる世界を創るために使われるはずです。私はそう信じたい!人間の叡智で原子力に頼らない電気を作る技術、電気を浪費しない生活を創りだそう!みんなで、そういう声を挙げ、そこに向かって出来ることを実践しはじめよう!今こそが、新しい共生社会へのスタート時点、ターニングポイントです。この絶望の中で最後の拠り所は、全国の人たちから同時多発的この声が発せられることです。

女性経営者という立場と地域再生

震災から2年3ヶ月を経て、今後のことを少しずつ考えようとしています。外的にはまだまだ悲観的な状況です。「精神科の医師によれば住民は長期的なPTSDという今までに前例のない精神状態に陥っているといわれています。そんな中で若者たちが2月に「市民同士で未来への対話をしよう」と企画した「南相馬ダイアログ・フェスティバル」でシンボルとして「想いのツリー」を置き、そこに市民(特に子どもたち)の想いを書いてもらいました。「一番知りたいことは?」という問いかけに、葉っぱのツリーに貼り付けられていた「じいちゃんちのすいかをたべてもいいですか」というたどたどしい字の質問を目にしたとき、我々大人は皆、涙があふれてとまりませんでした(南相馬からの便り7【みんな共和国ができました】)

わが社は女性従業がほとんどです。そこで子どもにキーポイントにした活動で地域で根を張る企業になろうと決意し始めました。地域があるからこそ企業も存在出来るのです。

子どもの笑顔を取り戻したい!そんな想いが子どもの遊び場をつくろうという新しいエネルギーになり、ダイアログに集った若者たちが行政を動かし、春休みの2週間、市の施設を無料で借り切り「みんな共和国」という子どもから大人までを対象にした屋内遊び場を実現させました。人が来るのだろうかという若者たちの不安はみごとに外れ、連日大賑わいで延3,400人を超える子どもと、子どもの心を持つ大人が集いました。子どもたちが、あふれるエネルギーを存分にふりまき走りまわっている。高校生たちが、自分たちの未来の社会を真剣に議論している。若いお母さんたちが、赤ちゃんを抱いて頭をよせ合いながら語り合っている。ばあちゃんたちが、ゆっくりとお茶を飲みおしゃべりをしている。

男たちは、高い砦のような遊具をつくりシンボルの旗を掲げた。みんな思いっきり笑っている!桜平山のてっぺんに出現した夢の空間、それがみんな共和国!なのです。

さて、こういった地域活動の真ん中に、実は中小企業家としての女性経営者がいるのです。

中小企業憲章(平成22年6月18日閣議決定)は次の「中小企業は、経済を牽引する力であり、社会の主役である」から始まります。中小企業は常に時代の先駆けとして積極果敢に挑戦を続け、多くの難局に遭っても、これを乗り越えてきました。中小企業は、経済やくらしを支え、牽引します。創意工夫を凝らし、技術を磨き、雇用の大部分を支え、くらしに潤いを与えます。意思決定の素早さや行動力、個性豊かな得意分野や多種多様な可能性を持ちます。経営者は、企業家精神に溢れ、自らの才覚で事業を営みながら、家族のみならず従業員を守る責任を果たす。中小企業は、経営者と従業員が一体感を発揮し、一人ひとりの努力が目に見える形で成果に結びつき易い場なのです。中小企業は、社会の主役として地域社会と住民生活に貢献し、伝統技能や文化の継承に重要な機能を果たす。小規模企業の多くは家族経営形態を採り、地域社会の安定をもたらすのです」。(以上中小企業憲章)

私たちは地域に根を張る女性経営者です。母なる女性の力が中小企業の豊穣さと個性の多様さを物語っています。

株式会社北洋舎クリーニング
代表取締役 高橋美加子氏
会社設立1948年/資本金1,000万円/年商9千万円/社員数20人/事業内容クリーニング/URL http://www.hokuyosya.com/

■ 南相馬からの便り7 【みんな共和国ができました】(2012/6/18)
■ 南相馬からの便り6 【南相馬から発信】(2012/1/30)
■ 南相馬からの便り5 【声を届ける】(2011/7/15)
■ 南相馬からの便り4 【”ありがとう”からはじめよう】(2011/6/6)
■ 南相馬からの便り3 【再生へ向かってスタート!】(2011/5/6)
■ 南相馬からの便り2 【声を挙げてください!】(2011/4/17)
■ 南相馬からの便り1 【知ってください!】(2011/4/10)

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