トランプ大統領就任とアメリカのNPOと女性たち
米ホワイトハウスの執務室で、大統領令に署名したドナルド・トランプ大統領(2025年2月10日撮影)。(c)ANDREW CABALLERO-REYNOLDS/AFP
早くもトランプ大統領の権限拡大「あまりに危険だ」65%
米調査機関ピュー・リサーチ・センターは2月14日、米大統領の権限拡大に米国民の大半が懸念を示しているという調査結果を発表しました。トランプ米大統領により大きな権限を与えるのは「あまりに危険」という回答が65%に上ったのです。民主党員や民主党寄りの90%が懸念を示し、共和党員や同党寄りでは39%でした。調査は1月27日~2月2日、全米から無作為に抽出した約5090人を対象に行われました。
トランプ大統領は就任から3週間中で、少なくとも65件の大統領令に署名し、前政権からの大幅な政策転換をはかっています。また大統領権限を拡大し、憲法上の大統領の権限を逸脱しているともいわれています。世論調査の回答者の65%が「あまりに危険だ」と懸念を示していることが明らかになりました。(https://www.bing.com/news/search?q=&FORM=EWRE)
マイノリティや移民、ジェンダーも反対、NPOも反対か
トランプ大統領は、マイノリティや移民、ジェンダーなどについて、伝統的なアメリカの政策を大きく変えようとしています。国際関係でも、アメリカ政府が運営する国際援助機関USAID(米国際開発局1961年設立)が閉鎖されようとしており、国内外から懸念の声が上がっています。USAIDの年間予算は2023年度で約400億ドルと、アメリカの対外援助の半分以上を占めていますが、この金額の大きさがトランプ政権には「税金の無駄遣い」と映っているのです。USAIDは、人道支援活動(紛争や災害被害者への緊急支援)、教育普及や女性の権利向上などの社会構造改革、エボラ出血熱やコロナウイルスなどの感染症対策、インフラ整備や電力アクセス向上による経済発展の支援、気候変動対策と環境保全の推進等に重要な役割を担ってきました。日本も東北の震災に駆けつけてくれたのです。USAIDがなくなると、世界中の多くの人々の生死にたちまち影響します。
アメリカは「世界のリーダー」地位をとって変わられる
USAIDが閉鎖すると、たちまち途上国での生活支援が滞るリスクがあります。アフリカの飢餓対策や医療支援停止で数百万人の命が危険になり、ウクライナの戦争被害者支援にも影響が大。エボラ出血熱・マラリヤ、新型コロナウイルスへの支援が縮小されれば、パンデミックの再拡大を助長する恐れがあります。最も大きな影響は、アメリカの国際的影響力の低下です。アメリカは長らく国際援助を通じて「世界のリーダー」としての地位を維持してきましたが、その地位は急速に低下するでしょう。USAIDが閉鎖され、アメリカの地位は揺らぐ一方、中国やロシアが新たに主導権を握る可能性が出てきます。
NPOへの政府補助金や融資の停止に対して
NPOに話を絞ります。ホワイトハウスは1月29日、政府の補助金や融資などの拠出事業について精査するためとして、執行を一時停止するよう各省庁に指示しました。しかしNPOなどの政府拠出事業への執行停止措置はあまりにも影響が大きいと批判が噴出し、NPOの中間支援組織などが差し止めを求め提訴、裁判所が拠出停止を一時的に差し止める判決を出しました。またNPOとは別に、20を超える州政府は、議会で承認された予算の執行を政府が停止させるのは違憲として、裁判に踏み切るなど、目まぐるしい動きが続いたそうです。しかし、まだまだ停止の恐れがあります。これからが頑張りどきです。(柏木宏blog2月1日)
そもそもアメリカのNPOは
アメリカの非営利団体(Non-Profit Organization、以下NPO)はもう一つの「公共」といわれます。建国当初から「もう一つの」という精神があったといわれますが、それでも大きく発展したのは、1970代からです。営利を目的にしない事業・活動を行なう市民グループに非営利法人の資格が与えられ、税制優遇、寄付促進、郵便料金の割引き、その他の支援手段がとられています。大学や病院、教会から環境保護団体、小さな地域 住民団体まで全米には150万を超えるNPOがあります。これらは連邦・州政府あわせた数より多い職員を雇い、アメリカのGNPの7%(計算によっては15%)を占め、その予算総額は、世界第8位の国家の予算規模に相当します。NPOによる雇用者数はアメリカ全体の就業人口の3割に達しています。そのほとんどがボランティアではなく、有給の専従スタッフで、プロフェッショナルな仕事に就いています。学校、病院、図書館、公民館や社会福祉サービスの多くがNPOによって運営されています。政府でも企業でもない非営利セクター(第3セクター、独立セクター、ボランティ ア・セクター、慈善セクター:チャリティなどとも呼ばれる)は、アメリカでは確固たる規模の事業体として、専門性を持ち、収入も高く,厳然たる存在観を占めているのです。
私とアメリカNPOとの出会い、「カタリスト」(catalistwomen.org)を知る
CATALYST(カタリスト)を知ったのは、『日米女性ジャーナル』(ホーン川嶋瑤子編集スタンフォード大学:女性とジェンダー研究所)の「カタリスト報告書より」という記事でした。カタリストは1962年に創立されたニューヨークにある非営利法人である、という書き出しでした。私は主婦の「再就職センター」を設立して10年を経ていました。3か月にわたる再就職準備講座を開催し、キャリアカウンセリングや就職あっせん・紹介等を実施していました。日本ではまだNPOは法制度化されておらず、民間の活動団体でしたが、主婦の再就職は行政においても企業においてもブームでした。しかし、主婦の再就職が時間給で社会保障のない、解雇自由なパートタイム労働でしか需要がなく、再就職希望の女性たちの意気込みにかかわらず、私は気分が重かったのです。なぜフルタイムや起業等に向かないのか、老後の年金だってないのに。これからの人生の方が長いっていうのに、などなど思いながら憂鬱でした。そこで諸外国の再就職事情を見て回りました。アメリカをはじめとする各国(カナダ・イギリス、フランス、オーストラリア、ニュージーランド等)では、女性の再就職に専門的職業能力を身に付けるための「コミュニティ・カレッジ」(名前はさまざま)がコミュニティに用意されていて、誰でも、どこでも、いつでも安価に受講して新たな仕事につけるのです。人生何度でもやり直しができるのです。2度目はパートしかないのではなく、自分の未来を新しい専門的職業を通して輝かせることができるのです。日本では未だに企業戦略としての「パート」は、まるで身分制度か何かのように、103万円の壁とか、130万円の壁とかいわれて、人として自立できない収入の枠に閉じ込められています。ジェンダーの問題なのですよ!人権の問題なのですよ103万円問題は。(注:103万円と130万円は、それぞれ所得税がかからないボーダーラインと社会保険料がかからないボーダーラインを意味します。社会保険での扶養範囲は年収130万円で、税金での扶養範囲は103万円から150万円です。扶養されるという発想そのものが1人前の人間扱いではないでしょ。)
最初にカタリストを訪問した時、カタリストもスタートは主婦の再就職支援からだったと知りました。「しかし、アメリカではもうすべての主婦は企業にでてしまいましたからね。方向転換をしました。企業の女性のキャリア推進とビジネスの発展をグローバルにリードする企業を会員とするリサーチやコンサルタント団体として活動しています」と自己紹介されました。そして「my company・・・」と話しが続いていきました。NPOとはいわれませんでした。「96人のスタッフがいます。女性のキャリアを推進した優れた企業を『カタリスト・アワード』として表彰しますが、このアワードだけで1億円の収入になります」とも。現在では、アメリカだけでなく、カナダ、ヨーロッパ、インド、オーストラリア、日本でも事業を展開し、会員企業は800を超えています。カタリストの活動基盤は徹底した調査にあり、膨大なリサーチから浮かび上がる事実を科学的に分析し、毎年「カタリスト報告書」が出されます。これはビジネスを発展させ、ガラスの天井を破る解決策を見出していくのです。
カタリスト・アオード(Catalyst Award)2000
2001年1月に共和党のジョージ・W・ブッシュが大統領に就任してすぐの頃にもカタリストを訪問していますが、このとき、共和党の大統領に変わって、NPOとして不利になることはありますかと私は質問しました。このときのカタリストのプレジデント(シーラ・ウェリントンさん)は、「もちろん大変憂慮しています。けれど、私たちは、自分で経営していますので自力で頑張ります。しかし政治には力を尽くします」と言われました。私は頭を殴らのれたような衝撃を受けました。事業型といわれるNPOでは、経営基盤を確立する努力が最重要と位置付けていること、それとNPOと政治活動が密接に連携(アドボカシー活動)していることに衝撃を受けたのです。その後、同じニューヨークに「全米女性起業家協会」(NationalAssociationforFemale Executives)を訪ねた時にも同じ質問をしましたが、やはり同じような答えでした。草の根の強さというか、女性の底力というか、覚悟というか、とても凛々しい姿に敬服したのです。この度のトランプ就任にも、同じ思いで、覚悟をもって歩みを続けられることでしょう。2019年に訪問した西海岸サンフランシスコ・ロスアンジェルスのNPOの皆さん(老人ホーム、女性経営者協会等)もきっと、同じ思いで「今」を格闘しておられるのだろうと思っています。
現在のカタリスト・プレジデント兼最高経営責任者(CEO)はDeborah Gillis(デボラ・ギリス)さん。カナダ・ヨーク大学を卒業後、20年以上にわたって官民両セクターのコンサルティングにあたり、2006年よりカタリストに勤務し、グローバルな成長戦略を推進。初の米国以外の地域出身のCEOになりました。高校時代に「男女の同一賃金」をテーマにディベートしたことをきっかけに、女性の躍進に注目。以降、一貫して女性が活躍できる社会づくりに力を尽くしてきたそうです。「世界をよりよい場所に変えたい」という情熱を持ち続けているということです。
カタリスト・ジャパンについて
日本では、2014年より活動を開始し、グローバルでの50年以上のカタリストの動の歴史で蓄積されたデータや知見をもとに、具体的なソリューションを提供できる専門組織として、日本における企業のダイバーシティ&インクルージョンの推進をサポートしています。http://www.catalyst.org/japan-japanese
私たちもカタリストへの訪問を重ねて、日本での活動をしようとカタリストとの交渉をし、活動の計画を立てました(2000~2001年)が、まだまだ日本では機が熟していないのではないかと判断し、熟考の末、撤退いたしました。今、実際に活動を展開されている皆様の活躍を心から祈念しております。
新聞写真「ウイメンズ・イ二シャティブ」設立
参考文献
柏木宏blog
https://sites.google.com/view/grassroots-merica/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0
『女性と仕事ジャーナル』NO8 発行日:2000年4月20日 編集発行:女性と仕事研究所 発行人:金谷千慧子 特集:21世紀へポジティブアクション
●カタリスト特集●ウイメンズ・イ二シャティブ設立●職業アドバイザー
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