インド紀行 その4 ~インドの働く女性
2014/10/23
インドの女性労働者数
インドでは未だ女性労働者数を正確に算出されていないのです。2001年の国政調査では、女性労働者数を明確にするために特別の努力を払ったということですが、家庭内で家事に従事している女性や女児の労働は対象にはなりませんでした。インドでは女性を家庭の中に閉じこめておくことがステータス・シンボルとなっており、農村部での調査はことさら困難なのです。
都市部における女性労働者数では雇用・教育訓練一般局が集計した統計に基づいて雇用状況が分かります。2004年3月の統計では、組織部門で働く女性は全体の18.7%で、男性の方がかなり多いことが分かります。産業別では55.6%が社会・サービス部門で働いており、続いて21.4%が製造部門、9.8%が農業及び関連部門に、9.49%が金融、不動産、ビジネス部門に雇用されています。しかし今後は更に女性のIT関連を中心に組織部門への進出は進むだろうという見方もあります。
ニューデリーの社会学研究所が行った調査結果によれば、調査対象のIT企業90%がフレックスタイムを導入し、59%が”在宅勤務”の選択肢を女性に与えているなど、女性労働者のニーズに企業が合わせているということが浮き彫りになっています。
IT業界で女性労働者は、今後も大きな活躍が期待され、全労働者の女性の占める割合も現在の30%から2010年までに45%まで増えると予想されています。
しかし、その一方、多くの女性は顧客電話窓口や広報、販売促進活動、応対業務といった、高い技術を必要としない職に集中しているという厳しい現実があることも明らかになっています。
女性労働者の就業時間
働くインド女性が職場で過ごす時間は、近年ますます長くなる傾向となっています。
2008年3月8日の国際婦人デーを前にした6日、Assocham(インド商工会議所協議会)が調査結果を公開しました。調査によると、仕事を持っているインド女性が職場で過ごす時間は、平均で週60時間、3年前の48時間と比較すると大幅に長引いています。
Assocham会長のベヌゴパル(Venugopal Dhoot)氏はその理由として、インドに残る大家族制度によって夫や婚家からのサポートを受けやすく、女性が働きやすい環境が自然に整ってきていることが挙げられるという。家族が当然のように支えてくれる大家族制度が、働く女性の強い味方となっているといいますが、これでいいのでしょうか。
「民間企業だけでなく、官公庁で働く女性たちの業務時間も長時間化の傾向が見られます」と述べています。特に女性の就労時間が長時間化している分野としては、航空、メディア、接客、銀行、小売、情報技術などのセクターなどが筆頭を占めており、さらに今後、女性が活躍の場を広げるに従って、治安面や安全面での対策が急がれる、と調査はまとめています。
同じくHINDUSTAN TIMESによると1週間の労働時間では、50時間以上が13%、45~50時間が46%、41~45時間が27%と40時間を越える86%となっており、長時間労働があらわになっています。また土曜日の出勤は51%と半数を超えています。
インドの会社はまだ女性を評価していない
旅の途中にホテルで「Hindustan TIMES」をみました。2012年3月6日の朝刊でした。「ガラスの天井は女性にとっては、まだまだ高くて打ち破れそうにない。50%の事業所では、女性の管理職とチームリーダーは、10%にも満たない」と大きな見出しで書かれています。解説をしているのは、ヴァンダナ・ラナニ(Yandana Ramnani)さんで以下のような内容です。
女性は男性とともに世界で、ほとんどあらゆる分野を支え合っています。それは国家においてそうですが、さらに広がって企業の意思決定の場、重役室においても広がってきています。しかしインドでは、グローバルなベンチマークが欠けています。女性たちはインドにおけるガラスの天井を突き破れないままの状態です。まだこの問題の表面を爪でひっかいたという程度なのです。HTshineの調査によると、ガラスの天井は、ほとんど女性にとっては手が届かない、高すぎるという状態がずっと続いているのです。
およそ50%の事業所では、女性のマネジャーとチームリーダーは10%以下なのです。また25%の事業所では、50%以上の女性の管理職や代表がいることがわかりました。しかし9%の企業では女性の管理職が全くいないということが分かりました。
興味深いことには、大企業よりも中レベルや小規模の企業の方が中間管理職やシニアレベルの女性社員が多いということです。
しかし悲しいかな、インドではジェンダ-ステレオタイプは広く蔓延しており、インドの女性は、自分を認めてもらおうとすると2倍の努力を要するということになるのです。全インドマネジメント協会のセティ・ディレクターがいうには、女性たちはとてもアグレッシブになるか、又はとても感情的になるか両極端だといっています。
産業分野でも女性が多く働いていないところがあります。例えば不動産業や酒、たばこ産業、水道、電気、エネルギー、鉱山、造船などには女性が少ないのです。ほとんどの女性は、少なくとも2つのフルタイム労働をしているのと同じです。一つは仕事上の専門職で、もう一つは家庭でも労働です。その中でも子育ては、とても大きな分野です。だから工場が遠くなったり、移動が多くなると、家族のサポートができにくくなることはとても働きにくいことなのです。
HT shineの調査によると、たった7%の企業しか小さい子どものための保育施設を用意していませんし、女性のた安全ということでは、32%の企業が夜の帰りの車を用意しています。17%の会社が女性の夜の仕事にはガードをつけています。
下図によるとそのほかに「毎年の健康診断」が39%、「診療室」が31%なども実施しているようです。オフィス内に「ジム」(17%)があったり,「カフェテリア」(57%)、「ATM」(22%)も設置されているようです。
インドでは企業のミーティングは時間が守られていない
面白いデータもあります。このHTSHINEの調査で、会社の会議は時間どおりスタートしますか、という問に対して、「ほとんど時間通りには始まらない」というのが39%、「たまたま」というのは44%、「ときどき」が13%、「いつも時間通り」「大体時間通り」はそれぞれ2%ずつということです。
ゆるやかに解体されるカースト制度
現在、インドではヒンズー教徒が約82%を占めています。そのため、独立後のインド憲法ではカースト差別を禁止しているものの、まだ色濃く残っているのが現実です。カースト制度は元々ヒンズー教の制度ですが、特に、職業別の階級制度(身分差別)である「ジャーティ」という区分も存在し、階級の種類は一説には2000とも3000とも言われており、カーストによってなれない職種がはっきりしています。
しかし、IT企業に代表されるソフトウエア開発、BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)、コールセンターなど、今までの分類に属さない新しい業種が増えてきた現在、それに伴い、カースト制度はゆるやかに解体される方向に進みつつあるようです。
かつてはインドで働く女性を見るのは、ホテルの受付やトイレで待ち受けている人ぐらいだったのが、最近はIT業をはじめとして、あらゆる産業に女性の進出が広がっています。インドが経済大国にのし上がって行くのだろうかとよく言われますが、それはひとえにカーストを突き破って自分の頭で勝負する、若い賢い女性たちのエネルギー如何ということでしょうか。そんな女性たちに沢山出会いました 。
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