NGOフォーラム開会基調講演 AUNG SAN SUU KYIノーベル平和賞受賞者 1995年8月31日 世界女性会議NGOフォーラムにビデオ出演

      2014/10/23

宮城 正枝訳

この地球上、最大の女性たちの集い (少数の勇敢な男性も)であるこのフォーラム開会にあたり、一言ご挨拶をのべるのは、胸のふるえるような素晴しい仕事です。輝かしく も多様な現状の中で、 私たちを固く結びつける共通の希望を今からいくつか述ぺたぃと思います。 まず私はなぜ本日、 私が皆さんのところへいけないのかを説明したいと思います。

先月、私はほぼ6年にわたる自宅軟禁を解かれました。私自身自由が戻ったことで、私よりもはるかに苦しんでいる、あるいは今後も苦しみ続けるだろう多くの女性や男性の自由のために戦うことが、 私の義務となりました。 そのため今日、私は皆さんと共にそこに参加できないのです。このメッセージを送ることすら、たやすくはありませんでした。けれど国際的な協力と表現の自由を信じる人たちの助けを得て、 その障害をのりこえられたのです。彼等の助けによって、 私は、女性たちの行く道を定め、 私たち地球村(global village)の運命に影響をおよほす女性の闘争の祝祭に、 少しばかりの貢献をすることが可能になりました。私たちの努力は、 私自身の解放のみでなくもっと重要な私たちの根本的な原因のためにキャンペーンをしてくれたポリシーを持った、力強い女性たちの活動によって支えられてきました。私はこの機会に、 私たち姉妹同胞、政府高官から忙しい家庭の主婦にいたるまで各層の女性たちへ、 感謝の言葉を述ぺなぃではぃられません。 この彼女たちの努力こそ、 女性の連帯とともに未開の世界を切り開く力であり、 そのことの勝利を示しているものです。

フォーラム開会プレナリーは、 21世紀を迎えるにあたって人類社会の生活の質に影響を与える地球規模の力と女性のチャレンジについて述べます。 このフォーラムの委員長は、私にこの地球規模の力とチャレンジの中でも、 特に最近私の心を占めている事柄、 平和、 安全、人権そして民主主義にまとをしぼって話すよう提案されました。 私は、特に女性の政治と統治への参加という意味で話したいと思います。

何千年にもわたって、 女性たちは命を守り育てるために平和を求めて努力し、 自分たちだけで幼い者や老いた者たちを養い、守り、世話をしてきました。私の知るかぎり、女性が始めた戦争など今までありません。 それにもかかわらず、 どんな戦争であれ、 最も苦しむのは女性と子どもたちです。 私たち女性は、 家庭と家族の中で生命を守るという歴史始まって以来の役割を十分果たしてきました。 この何千年もの長きにわたる平和を願う活動の中で得た知恵と経験を、 今は世界の闘争の場でも応用すべき時なのです。 世界中の女たちが教育を受け、 力をつけるなら、人類全体にとって、もっと愛情深く、寛大で、公正で、平和な暮らしの実現に失敗するはずはないのです。

さらに拡大する女性解放の世界的恩恵に加えて、 冷戦の終結によってもたらされた人類の発展のための 「平和の配当」 が加えられ、 男性たちが戦争の玩具に使う経費を減らし、人類全体の緊急の必要のためそれを使うなら、 次の千年は人類の歴史上かって見られなかったようなよい時代になるでしょう。けれどこの目的を達成するためには、なお多くの障害を乗り越えねばなりません。その障害の中には、不寛容と危険(安全でないこと) が含まれています。
今年は国際寛容の年です。 国連は寛容と入権、 民主主義と平和は深く関連があるとしています。 寛容の心なく しては民主主義の基盤も人権の尊重も強化されず、 平和の達成も不可能です。 ビルマにおける民主化運動に長年たずさわってきた私自身の経験から、 寛容の果たす実利的な点を強調する必要があると確信します。 それは単に、 生きる、 生かすだけでは十分ではなく、真に寛容であるためには、他の入々の見方、考え方を理解しようとする積極的努力が必要です。協調しなかったり暴力に訴えたりすることなく、新しい挑戦に取り組む自分の能力に確信をもち、 同時に、 広い心とビジョンが必要です。 男性が自分たちの価値に確信を持つ社会でも、女性は単に 「寛大に取り扱われる」のではなく、 価値を認められるのです。女性の意見は尊敬をもって傾聴され、 社会のなかの重要な位置を占めるのです。

男たちがくりかえす流行おくれの諺がビルマにあります。この男性たちは女性も社会に必要な変化や進歩をもたらす役目を果たすことを否定したい人たちです。 それは 「おんどりが啼けば夜が明ける」 という諺です。けれど現在では、 ビルマの人たちは、夜が明けたり暗くなる科学的理由を十分知つています。 しかも知的なおんどりたちは、 おんどりが啼くのは夜明けになったからで、 その反対ではないことも認識しています。 おんどりは夜の闇を解き放つ光明を歓迎して啼くのです。 この世に光明をもたらすのは何も男性だけの特権ではありません。女性もまた同情と自己犠牲、 勇気と忍耐の能力によって、 不寛容や憎悪、 苦しみと絶望の聞を晴らすのに、 多大の貢献をしてきたのです。

不寛容というコインの反対側は、安全でなぃとぃうことです。危険が迫っている人々は不寛容になります。 彼らの不寛容は、 他の人びとの安全をおびやかす暴力を誘発します。 そして安全のないところには平和も長続きしません。 昨年の開発白書によれば、 国連開発機構は、人類の安全は武器によるのではなく、 人間の生命と尊厳によるものだと記しています。

ビルマの民主主義と人権への闘争は、 生命と尊厳を求める闘争です。 それは私たちの政治的社会的経済的な強い願望を包含した闘争であります。 わが国の国民は安全という名の二つの自由を求めています。 それは貧困からの自由と戦争からの自由です。 多くの少女たちが国境を越えて、 たえまない侮蔑とひどい扱いの性的奴隷の生活に追いやられるのは、 貧困からです。 国民を彼らの家庭においてすら、 尊厳と安全のうちには暮らせないと感じさせるのは、 政治的信条に対する迫害への恐れです。

伝統的には、家庭は女性の領分です。けれど女性たちがそこで安全に苦しめられることなく生き延びられるかという保証はいまだありません。女性が安心していられるべき家庭の中で、 数えきれなぃほど多くの女性がひどい残酷さにあっているのです。 そして男性たちがこの女性たちを守れない危機の時には、 女性は家庭内での義務を果たしつづけながら、 外の世界の苛酷な挑戦に直面しなければなりません。 民主化運動に加わったがために獄中生活を送っている私の男性同志たちは、彼らの女性仲間、特に彼らの妻たちに、感謝してあまりある恩恵をうけていると話しました。妻たちは彼らの側にしっかりと立ち、新生児にたいする母のごとく優しく、子どもを守る雌ライオンのように勇敢なのです。 正義と平和を求めて闘争する男性を支えるこの偉大なる人類たちが、 もし彼女たちの国家と世界全体のために、 自分たち自身の権利で働く機会を与えられたら、 はるかに多くのことを達成するはずです。

私たちの努力は、 私自身の解放のみでなくもっと重要な私たちの根本的な原因のためにキャンペーンをしてくれたポリシーを持った、力強い女性たちの活動によって支えられてきました。私はこの機会に、 私たち姉妹同胞、政府高官から忙しい家庭の主婦にいたるまで各層の女性たちへ、 感謝の言葉を述ぺなぃではぃられません。 この彼女たちの努力こそ、 女性の連帯とともに未開の世界を切り開く力であり、 そのことの勝利を示しているものです。

私たちの国では、 現在、 行政と司法の高いレベルでの女性の参画はありません。
民主化運動の中にあってさえ、1990年には485のM Pのうちただ14人(すべて私の党、全国民主同盟からですが) しか女性は選ばれていないのです。 この14人というのは、 当選した候補者全体のわずか3%以下です。 彼女たちは男性同僚同様、 この選挙が全く無視されているので、 今もって就任することも許されてはぃなぃのです。 しかし、 私たちの教育制度と商業的企業の経営における女性のめざましい実力は、 社会全体の進化に貢献する女性たちの潜在的能力の偉大さを証明しています。 その一方、 私たち女性は、 男性たちに対しても否定されている表現の自由や、 連帯、生命の安全という基本的人権を達成しなければなりません。

私たちが直面した逆境は、 私たちに、 克服されない両性間の障壁などのない、 真に民主主義的政治制度をビルマにうちたてるために、 この闘争に参加することを教えてくれました。男性と女性の関係は、一方的保護や搾取によるのではなく、メッタ(慈しみ)と協力と信頼によって特徴づけられるべきであり、 またそうできるのです。 私たちは、 男性と女性の間に、家父長的支配やおとしめ一それは暴力の使用と、 対抗する報復暴力の発生をうながす一ではなく、相互の尊敬と理解を必要としているのです。 私たちは互いから学ぶことができ、 伝統的あるいは生物的要素による男女両性おのおのの弱さを補い合い助け合うことができるのです。

世界中に女性がしゃべりすぎる結果に対して古くからの偏見があります。 しかし、これは本当に弱点なのでしょうか?本当は長所なのではないでしょうか?最近の人類の脳に関する科学的研究は、 男性が肉体的行動についてはすぐれているのに対し、 女性は話す技術にたけていることを明らかにしました。一方、 心理的調査は、 男性によって発生させられる不適切情報は、女性の噂話よりももっと犠牲者にダメージをあたえることを示しています。 これらの発見は確かに、女性たちが紛争の状況下にあっても、悪意と暴力によらず、会話に基づく解決の方法を導く のに、最も価値ある貢献をすることを意味しているのです。雨期のひきこもりが終わった時におこなわれる仏教のバラバナ式典は、”動物のように口の聞けない“沈黙の中に人類が暮らすのを望まなかったブッダによって始められました。

この式典は、 ひきこもりの間におかされた無礼を僧侶たちが互いに謝罪する、真実と和解の会といえます。 また人々が共通の問題を話し合うために集まる最も民主的な機構、 議会、 集会の原型とも考えられます。 世界のあらゆる偉大な宗教は、 世代の幸福と調和のために捧げられてきたのです。 これは、 人間が闘争的本能と同時に、 相互理解と平和を求める精神的切望も共に持っていることを示しています。

NGOフォーラムは、知的な人類には、交流と会話を通して、相対立する利益を解決し得る能力があるのだという信念の表れです。 また同時に、 政府だけでは彼らの国の問題を解決することはできないという確信をもしめしています。 政府役人の活動範囲の外側にある機関は、十分に監視し、積極的に協力しあって、UNDP(国連開発機構)によって確認された人類の発展、 規範に必要な四つの要素を確実なものにすることが、 必要不可欠なのです。 その四つとは、 プロダクティピティ、公正さ、持続しつづけること、そしてエンパワーメントです。

最後のものは特に明白です。 それは 「開発は人類によってなされねばならない、しかし人類だけのためではない。 人々は生活あるいは生命を形づくる決定と過程に全面的に参加しなければならない」 ことを要求しています。 別の言葉でいえば、 国民はその国の統治に重要な役割を果たすことを許されねばならないのです。 そして「国民」 とは、全世界の人口の、 少なくとも半分をしめる女性も含まれます。

過去6年間、私は考えるための多くの時間と糧を与えられました。私は、人類が善と悪の二つの対立した種族に分けられるのではないという結論に達しました。 学ぶことのできる人たちと、 できない人たちに分けられるのです。 ここで私は「学ぶ」 というのを学問的教育の狭い意味で使っているのではありません。私たちの世界に、平和と幸福をより強固にもたらすことを私たちに可能にする生命の教えを吸収する過程として、 学ぶという言葉を使っているのです。 女性たちは母親の役割の中で、 伝統的に、 子どもたちに生涯を通じて彼らを導く価値観を教える責任をひきうけてきました。
今は、 社会の価値観に革命的変化をもたらした技術革新の強力なチャレンジに持ちこたえられる近代社会をうちたてる方向に、 私たちの自然に備わった教育する技能を使って貢献する機会を与えられているのです。人を教えることに努力するとき、私たちもまたもっと学ぶぺきであるとぃう謙遜の気持ちを持たねばなりません。私たちをとりまく社会の必要とするものが、変化していることを認識する柔軟性も持たねばなりません。謙虚さとしなやかさが、何よりも誉められるべき徳であると教えられてきた私たち女性は、 謙虚に学ぶことに対しては、 おどろくほど用意ができています。 しかし女性はしばしば単に受動的でありがちなその特質を、住んでいる社会の積極的資産にかえる機会を与えられねばなりません。

私たちをつなく共通の希望は、 私たち自身の手足から、 偏見と不寛容の足枷がはずれる時、 私たちは、 地球上のどこにおいても人類の発展を妨げるものを明らかにし、 それを取りのぞくためにともに努力することができるということです。 この大きな課題をいかに達成するか、その手法こそこの偉大なフォーラムで論議されるべき焦点でありましょう。私同様、 ともに参加できない世界中の女性たちが、 この大会が喜びにみちた実り多い大会となるよう、 私とともに祈りと期待を送っているのを、今私は確かに感じています。ありがとう。

訳 宮城正枝 香川短期大学教員

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