今回の選挙結果への「絶望感や不安」にどう対処する?

   

女性議員の数は前回より減少
第49回衆院選は10月31日投開票され、投票時間終了と同時に自民党は公示前の276議席から減らしたものの、単独で国会の安定運営に必要な「絶対安定多数」を確保したと報じた。選挙結果に身構える猶予もなく「なんだったのこの選挙?」「なんで変わらないの?」「もうどうしようもないわ」という絶望感や不安に苛まれて、この何日間かが過ぎた。岸田文雄首相は国民からの信認を得たという。立憲民主党は多くの選挙区でほかの野党と候補者を一本化して選挙戦に臨んだが、議席を減らして共闘は成功しなかった。
衆議院の女性比率はさらに後退。女性は465人中45人で、全体の9.7%。2017年の前回(10.15%)よりも減った。ジェンダー・ギャップを問題視する声が高まるなか、現実はむしろ後退した。世界経済フォーラムが今年3月に発表した「ジェンダー・ギャップ指数2021」で、日本は156か国中120位と、G7諸国の中でも圧倒的な最下位を記録した。特に政治分野の評価が低く、156か国中147位だった。今回の衆院選は、各政党に男女同数の候補者を擁立するよう努力義務を課した「政治分野における男女共同参画推進法」の施行後、初めて行われた国政選挙だったが、候補者1051人のうち、女性は186人で17.7%。政党別では、与党の自民党(9.8%)と公明党(7.5%)はいずれも1割未満で、立憲民主党も18.3%と振るわない。
国は昨年末に閣議決定した「第5次男女共同参画基本計画」の中で、衆議院と参議院の候補者に占める女性の割合を、2025年までに35%に引き上げるという目標を掲げているが、今回の選挙でこの目標を満たしていたのは、共産党(35.4%)と社民党(60.0%)の2党のみ。全体でこの数値を達成するためには、あと4年で現状の2倍に引き上げなければならないのだが、どうだろうか。さらに、コロナ禍の日本社会の(特に政治の)劣化現象を浮き彫りになっていたなかでの選挙だったのに、この結果に終わったのである。


“格差社会・ニッポン”の現実はなくならないのか
この選挙で最も変わってほしかったのは「成長戦略」ではなく「生存確保」だった。新型コロナウイルスの感染拡大が女性の雇用に大きな影響を与え、失業・自殺など様々な問題に波及している。背景には、コロナ前から起こっていた日本の人口・世帯構造や就労構造の変化に対して、社会の仕組みの変化が追い付いていなかったことがある。
コロナで痛めつけられた女性非正規労働者、なかでもエッセンシャルワーカーといわれる介護・子育て・医療などに懸命に従事してきた女性たちの精神的、身体的労苦をどう緩和するのかに対して、「いやこのままでいい」というのが選挙結果なのか。コロナ禍を契機に従来の政治構造やリーダーのありかたが機能していないことが鮮明になったのに、それでも「このままでいい」という選挙結果だったのか。
しかも危機はコロナだけではない。ひとまずコロナの感染拡大が収束したとしても、依然として世界は、日本は、様々な問題に直面している。核兵器、気候変動、大災害、資源の枯渇、格差の拡大、高齢社会、人口減少などなどが迫っている。

しかし「このままでいい」わけはない
今の日本は、女性にとってとても生きにくい社会である。女性を弾圧しているアフガニスタンのタリバン暫定政権は国際的に厳しく非難されているが、この選挙結果を見れば日本は顕著に女性が排除された社会、女性を抑圧する社会と言わざるを得ない。しかし選挙結果は、「このままでいい」と考えている人が多いことが示されたのだから、ジェンダー平等を求める人たちはそんなに多くはないということである。
日本でジェンダー平等は、諸外国より30年以上は遅れており、それが達成されるのには3世代以上はかかるかもしれない。生きているうちに変化してほしいなどと思うのは無理なことなのだ。日本の女性は、「生きにくさ」に「適応」してしまっている。快適に適応しているか、我慢して適応しているか、どっちにしろ、これからも適応していくのか。「まあまあ昔よりずっとよくなっているわ」と自分に言い聞かせて、日々の生活の中の小さな幸せを大切にして生きる、それもありかもしれないが、生きにくさに「適応している」だけだと気づけば、変化を起こすことに加わるかもしれない。もし「今のままでもいい」と思わないなら、選挙で投票することである。それをやるしかない。

「日本は変化が起こりにくい風土」だということは念頭に
中根千枝さんが亡くなられた。94歳だった。「タテ社会の人間関係」などの著書で知られる社会人類学者で東京大学名誉教授の中根千枝(なかね・ちえ)さんは、女性初の東京大学教授として知られる。社会人類学の草分けとして、インド留学などを通して実証的な方法論を確立。日本人のムラ意識や年功序列の論理など日本社会におけるタテ社会構造を分析した「タテ社会の人間関係」(講談社現代新書)はベストセラーになった。その著を紐解き、「日本が変わりにくい風土」だということを改めて再認識して、前を向こうと思う。日本の集団は、長老社会をよしとし、変化にオタオタし、異質を排除する。日本社会のリーダーは能力の有無を問われない。むしろ能力は必要なく、「和」を維持できればいいのである。こんな日本社会で、女性のリーダーが能力を発揮し、賞賛されるのは、時間がかかることは当然想定される。以下は著書からの引用文である。

・社会集団の構成要因に『資格』と『場』が考えられるが、資格とは社会的個人の属性をあらわす。この属性により集団が構成される。例えば職業、血縁、身分などの資格。アメリカ・インドなどに見られる。場とは地域、所属など一定の枠によって集団が構成される。例えば○○村、○○会社、○○大学の成員など。日本の社会集団の特徴は、場が中心で自己の存在を示す拠所となっている。場によって構成される日本的集団の構造には『タテ』の組織という共通構造がみられる。タテ関係は底辺のない関係であり、頂点が存在する。一方向的なつながりが多い。
・日本的集団のリーダーと集団の関係をみると、リーダーはディレクターシップが欠如しており、派閥の影響や決断の優柔不断的側面が日本社会において浮彫になる。リーダーには個人の能力が重視されるのではなく、人間的な情、包容力が重視される。そのため、リーダーには年長者がつくことが多い。
・日本には、欧米で見られる契約精神が欠如している。これは終身雇用制などではこのような契約関係が生まれないからである。人間関係が深く関わる集団構造において契約関係は起こりにくい。感情があることでタテ社会は弱者に安住を生み、集団の帰属意識を高める。
・人間的なつながりに日本人の価値観が強くおかれている。論理より、感情を優先するといえる。このことから知的活動においてマイナスであると言える。しかし、論理のない世界に遊ぶ─リラクゼーションとしての貢献─というような重要な社会的機能を担っている側面ももっている。このことが、日本の文化が外国人に理解出来にくい性質を持ち、国際性がない原因ではないだろうか。

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