夫の死にあたふた(1~3)女性が働くことを支えた人
夫は戦後の食糧難の時代に育ったにもかかわらず、健康な歯が一本も欠けず最後まで身体を支えたというのはすごくラッキーな人だと思います。戦後しばらくして、「戦後、強くなったのは女と靴下」というフレイズが流行りました。靴下が強くなったのは、ナイロンという繊維の発明があったからなのですが、女性は靴下のほころびを繕うという針仕事から解放されることになりました。そして強くなったもう一つ「女」は新憲法(昭和22年)の制定が背景にありました。「男女同権」、「男女平等」という言葉は小学1年生の私にも「女も大学に行ける」ということと直結していましたし、どんな仕事をしようかという夢とも直結していました。勉強にも力が入ります。しかし仕事をするのは、結婚まで、出産までという現実があるというのはすぐに気が付きます。結婚退職制、出産退職制は現実でした。そこで恋の季節が始まるころから、「私は一生仕事をしたい、そういう女性をどう思いますか」という会話から始めることにしていたのです。18歳で出会った夫は「これからの時代は、働く女性もいいと思う」と言いました。でもほかの人は全部、「やはり家にいてほしいなー」「僕は朝、味噌汁とご飯を作ってくれる人がいい」という調子でした。それから7年後に、人前結婚式(会費制結婚式といってたかもしれない)をやったときには、神主さんも要らない、仲人も必要ないという調子で、2人で「誓いの言葉」を読みました。
「憲法24条―婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として相互の協力により維持されなければならない。
日常の家事については、夫、康夫は掃除と洗濯を担当する。妻千慧子は、食事を担当する。もしこの約束に反して、二人が別れるに至ったときは、アパートの保証金は3:1(妻:夫)に分けること。以上のことを誓います」
この話を昨年2020年1 月27日、新憲法の起草者ベアテ・シロタ・ゴードンさん(2012年12 月死去)の娘さん(ニコル・A・ゴードン)さんに、セントラルパーク近くのお宅でしたとき、ニコルさんは、とてもいい話を聞きましたと喜んでくださいました。その後の私の家庭生活では、日々の家事育児は、なかなか宣言通り運ばず、毎日バトル続き、喧嘩は絶えませんでした。「洗濯は来週するって・・」などといいながら、自分だけ近くのスーパーで下着を購入してくるといったことも度々でした。掃除は、「埃ぐらいで人間は死なん、大丈夫やから」と平気でした。それでも子どもは掃除機を「パパのもの」と名づけていました。子どもの保育所不足ではやっぱり困り果て、保育所の近くへの引っ越しなどもしましたが、結局は、無認可の保育所を作ることになり、夫も廃品回収に、物品販売にと、進んで参加しました。保母さん(保育士)の病欠には割り当てられた父親・母親は否応なく保育に参加しなければなりませんでした。自治体との交渉もやりました。頻繁に父母の会のミーティングもしなければなりません。夫もなかなか過酷な保育所時代でした。
ベアテ・シロタ・ゴードンさんと憲法24条
夫の死後、商店街を歩いていると、「ご主人には保育所でほんとにお世話になりました。役所で、それなら仕事辞めたらどうですか。大した仕事じゃないんでしょと言われた、あの言葉を跳ね返してくれたご主人にほんとにうれしかった」と言ってくださった店主(お茶販売)の方がいました。また「保育所の送りは僕がしてたんです。男は一人でした。ねんねこでおぶっていきましたが、雨降りの日は、傘で顔が隠せてうれしかったです。そこへご主人が加わって、ほんとにうれしかった」といってくださった元大阪府職員だった方からのお手紙もいただきました。
これからの時代、女性が働くことは当たり前」と断言していた夫は、弁護士事務所でも女性の事務局員には働き続けることをずっと応援してきました。いまも勤続〇十年の3人の方からは感謝されているようで、よかったなと思っています。(次回も続きます)
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