日本にも卵子凍結が増えているー、女性の選択肢は広がるのか

   

日本にも卵子凍結が増えているー、女性の選択肢は広がるのか

シングルマザーズ・バイ・チョイス(Single mothers by choice選択的シングルマザー)

もう30年以上も前のこと。アメリカやイギリスの女性たちに、シングルマザーズ・バイ・チョイスが増えていた。そのビデオを女性学の授業にも度々教材として利用した。シングルマザーズ・バイ・チョイスというのは、妊娠前からシングルマザーになることを自らの意志で希望し、結婚せずに出産、子育てを1人で行っている女性のことをいう。シングルのままで自分の卵子を凍結保存しておき、子どもが欲しくなったときに、解凍して体外受精(顕微授精)し、その受精卵を自分の子宮に移植し、月満ちて出産するという方法である。女性が自分の判断だけで、産む時期などを決められるという利点がある反面、子どもに父親のことをどう説明するのか、1人だけの収入で子育てを全うする困難性などの課題もある。そこでアメリカでは1982年にシングルマザーズ・バイ・チョイスたちのNPO団体ができ、支援をしてきた。

キャリアをまっしぐらに邁進する比較的高収入の女性たちが将来子どもという家族を持ちたいと思ったときに、卵子の老化で機能が低下して妊娠の可能性がなくならないように、また結婚・出産の順序などどうでもいいし、将来ともシングルで子どもだけほしいと考える女性が、将来への保険として卵子凍結を利用する例が増大していたのだった。卵子の凍結は、不妊治療のために始まったのだが、結婚にこだわらず家族を持ちたい女性も恩恵に浴し、生き方の選択肢を広げることにつながった。

その当時、私の講義(女性学)を受講した学生たちの反応は、「やっぱりアメリカは進み過ぎているわ」「子どもに父親は必要だ」「男性が関わらずに子どもを生み、子どもと家族になるって、男の役割って何なのだ」などという反応が多かった。「驚いた」「考えられない」というのが本音のようだった。

日本では少子化対策の一環として?

それから30年余を経て、日本で「広がる卵子凍結」というタイトルが紙上に露われてきた(毎日新聞2021年11月10日朝刊)。「そろそろ子どもが欲しい。しかし結婚に対しての魅力を感じられず結婚はしたくない」といった女性が日本でも増えて来ているのだろうか。また「仕事のキャリアアップを優先したい」女性が、将来の妊娠・出産に備え、若いうちに卵子を凍結保存しておくということなのだろうか。日本でも女性の生き方の新しい選択肢となるのだろうか。しかし日本ではまだまだ結婚後に妊娠・出産という考えが根強く、非婚の母親はまだまだ理解されにくい。「出産よりも卵子凍結をしておいて働ける間は働いた方がいい」といった圧力が女性にかかる可能性もある。

さらに日本産科婦人科学会は「健康な女性を対象とする卵子凍結は推奨しない」としており、そのため、国内の実施状況についての把握ができていないし、選択的シングルマザーを支援する準備も整っていない。それよりも今後考えられるのは、少子化対策の一環として卵子凍結を勧めるということが考えられる。公費で助成している自治体もある。この卵子凍結は自由診療のため、料金は施設ごとにばらつきがあり、採卵回数や保存期間により数10万円~100万円以上もかかるのが一般的である。

「産む性としての女性」に過酷な働く環境

現在アメリカではシングルマザーズ・バイ・チョイスは10万人以上に増えている。企業側も女性の仕事の継続を支援するという目的で、出産・育児に関する福利厚生として卵子凍結の支援をしている。2014年Facebookでは女性社員と社員の結婚相手を対象とした施術に最大2万ドルが支給されるようなった。これを受けて他のテクノロジー企業も続々と卵子凍結の支援を決定している。これは優秀な人材獲得と人材多様性の改善を進めたいテクノロジー企業の目的からである。女性が出産・子育てのために実力を発揮できなくなるのを避けるために、昇進を放棄せず、女性のエグゼクティブや役員が実力を発揮できるように、という課題から実施されている。

日本では企業からの卵子凍結を勧めるというのはないようだが、日本の女性が卵子凍結をしてでも、出産と子育てという責任を全うしようとする実態は、やはり仕事と子育てを両立しにくい職場環境に原因があるといえる。女性だけに生殖能力・出産の責任を負わせて、働く環境を改善しないのは、政策の不備・怠慢にほかならない。

女性が望む時期に安心して産み育てられる環境を国や社会が確立することが先決である。男性も含めた長時間労働の改善、男性が家事育児を自分のこととして取り組むことが必然的課題である。

そのうえで、卵子の凍結が、女性の生き方の選択肢の広がりとして、国も社会も企業も受け入れる環境が出来、支援制度も確立すれば、結婚はする気持ちはなくとも子どもを産みたい、育てたい女性たちは、生き方の選択肢の広がりとして卵子の凍結をするかもしれない。女性が生き方を選択しやすい世の中では、選択的シングルマザーも徐々に増えていくことだろう。

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