アフターコロナは、「脱」経済成長を ~ 変革を担う、女性でありつづけよう
1 オリンピック前半を振り返って
オリンピックの前半が終わろうとしている。もっといい環境での競技が望ましかった。熱中症で力を出し切れなかったり棄権したり(男子30人女子15人棄権)、コロナにかかって結局競技に出られなかった選手たちもいた。テレビで十分アスリートの活躍を楽しめたし、金メダルのラッシュに喜んだものの、オリンピック中もコロナの感染拡大は一向に収まらなかった。東京五輪を中止する選択肢もあったはずだったが、政権は、「人流は減少している。そうした心配はない。オリンピックとコロナは関係ない」と言い切り、開催へと突っ走った。無責任な態度である。
新型コロナウイルスは、その発生当初から世界的パンデミックになる恐れがあるという警告もあったが、一方で「それほど心配するほどのものはない、風邪の一種のようなもの」と軽視する発言も目立った。コロナのパンデミックが現実化しても、多くの人は、オリンピック前には流行も収まるだろうと考えていた。しかし新型コロナの影響は今後も続くかもしれないし、そしてそれははじまりに過ぎないかもしれない。これから訪れる地球の大きな変質の前哨段階かもしれない。
国連の気候変動に関す政府間パネル報告書(IPCC)は、対策を取らなければ「絶滅の瀬戸際」に立たされると警告している。今後熱波や大雨,旱魃といった異常気象の頻度や厳しさが増すと予測している。「私たちの未来がすぐそこに来ている」と。
2021年の夏、日本の劣化現象がぐっと進んだのではないかという気がする。というよりも劣化した状態だったものが露わになったということかもしれない。オリンピックに限定しても招致段階における竹田恆和前会長の買収疑惑は、現在もなおフランス検察東京の捜査対象になっているし、IOC総会における招致都市の選定会議での安倍元首相の「アンダーコントロール」「日本の7~8月は温暖」メッセージが嘘だったこと、エンブレムの盗作問題、そして組織委会長、森喜朗氏の「わきまえる女性」発言で浮かび上がった、組織委のあまりにも古臭い女性差別体質の暴露。そして直前の開会・閉会式の東京五輪・パラリンピックの開閉会式の総責任者の佐々木宏氏が、タレント渡辺直美を侮蔑するような「ブタ」演出を提案していたことが発覚。その後肩書は事実上トップのShow Director)として任に当たっていた小林賢太郎氏、同じく、開会式のクリエーター、Composerの小山田圭吾氏が、それぞれ、解任、辞任という事態となり、大変な騒ぎになった。いくら芸術性にすぐれていようと、ユダヤ人の大量虐殺(ホロコースト)を題材にするという安易な歴史観の上には、嘘偽りのない生き方は築けない。さらにこの東京大会は史上最高の経費を費やした商業主義にまみれたものになった。
2 アフターコロナの世界に「変革」とは
さて今、原稿を書いているのは8月6日。第76回原爆死没者慰霊の式典が行われている。コロナ後の世界をどう生き抜くのか、コロナ後の世界で変革を担い続けるというのはどういうことかを考えてみたい。
広島市は平和記念公園で開催された今年の爆死没者慰霊式並びに平和祈念式で、今年も核兵器禁止条約の署名・批准(現在50か国)を政府に要求した。しかし政府はそれには触れずに、読み飛ばしや言い間違えを含んだ挨拶文を終えた。希求する核のない社会の実現は未だ遠い。
継続するコロナ禍の下、熱中症の危険が伴う7月23日から、東京ではオリンピックが開催された。8月5日東京では感染者数が今までで最も多い5000人を突破し、5042人になった。自宅療養(入院できない)女性が死亡したと伝えられている。地球温暖化で日本の夏は、人間の生存には不適切な環境になっている。今日も熱中症警戒アラートが全国に出ている中、オリンピック競技が行われている。「もしこの暑さで死んだら誰が責任を取るのですか」と競技時間の変更を訴えたのはテニスの選手たちだった。警戒アラート中は、エアコンが設置されていない屋内外での運動は原則中止または延期することになっているのだが。
3「脱」経済成長を目標に
コロナ後の世界を考えるうえで、手掛かりを探りたい。
コロナの大変な時期だからこそ、歴史から学び、知り、考える力をよみがえらせ、格差社会をなくし、ひとり一人の命を尊重するための新たな使命が生まれ、行動する力を得る。それも影響力の大きいほんものの行動する力が芽生える。
今までの繰り返される大量生産と大量廃棄、慢性化した長時間労働、広がり続ける格差、歯止めがかからない気候危機。今、際限なき成長を追求する資本主義の矛盾と限界が露呈している。これを解決する経済社会ビジョンとして注目されるのが、成長経済からの脱出である。脱成長は、21世紀のもっとも重要な思想のひとつである。脱成長が経済だけの問題ではない。脱成長は、わたしたちがどう生きるか、どう行動するか、そしてどう世界を作っていくかのカギとなる。
自然と人間と夢への志を尊重する「正しい労働」という概念を作りだしたい。人間の尊厳と自然との調和を事業の目的とした「人間のための経済活動」が必要である。豊かな暮らしを取り戻すためには、文化、芸術、人々の交流を促進することが重要であり、人間の幸福のために、人にも自然にも害や苦痛を与えずに豊かに生きることが重要である。そして「脱成長」を目標に、次の4つを柱に設計できるのではないか。(2015年9月の国連総会で採択された『持続可能な開発のための2030アジェンダ』とフェミニストとして視点から柱立てをした)。
1 一人ひとりの健康で安心な生活 2 平等(女性のエンパワメントとジェンダー平等)3 持続可能性(地球を守る)4 グローバルなパートナシップで
この4つを柱に、脱成長に向かって舵を切ろう。
今年の夏、我々は歴史の転換点に立たされている。ここで、何が起こるのか、起ころうとしているのかを注視し、決して忘れることなくしっかり記憶しておきたい。そして行動へとつなげたい。
「変革」とは物事をすっかり変えて新しくすることである。「改革」(基盤を維持しつつ、改め変えること)ではない。また変革を担うというのは、持続的な力が必要である。企業風土を変え、女性の働く環境を変え、女性の人生を豊かにするために、努力と責任を持ち続け、行動する女性でありつづけるということである。
この「変革を担う女性であること」というのは、津田塾大学がモットーとして掲げているもので私もとても共感している。
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