6月の1枚― より本質的なものを色彩で表現したい!

      2024/06/04

入選しました。第77回 女流画家協会展(2024年度)

Women’s March on Washington  金谷千慧子 F100号

公募展の制作からやっと解放されて一息ついていました。私の中で自分の絵について新たな意欲が沸いていました。赤い絵の具をキャンバスに塗りまくりたい、それも勢いをつけて、がむしゃらに絵の具をぶつけたい!という気持ちでした。そして、より自分の中の本質」を明らかにして、それを引き出して描いてみたい、「その本質がどんなものか見極めたい」という気持ちでした。しかし、まだまだあいまい状態なのですが、ただ「赤い絵の具で動きのある線でむしゃらに表現したい」という気持ちがこみあげていました。これは間違いなくアブストラクト・アートへの接近です。
アブストラクト・アートは、目に見える景色や姿をそのままに再現して絵にするのではなく、より本質的なものを色彩や形態によって描き出す絵画のことです。

赤い絵

はじけちまった!(2024年5月18日)


腰の曲がった赤い樹(2024年5月20日)


みんなで赤い橋を渡る(2024年2024年5月25日)

抽象絵画の始まり

美術史的には抽象絵画は、具体的な対象を写すという絵画とは異なる絵画です。抽象絵画が誕生したのは、20世紀前半といわれますが、それまでのヨーロッパ美術では、現実の世界(目で見える世界)をそのまま忠実に再現するのが美術の目標でした。歴史画にしろ、宗教画にしろ、肖像画にしても、です。職人技的な精巧性が価値のあるものとして評価されてきたのです。目に見えている本物とよく似ていることが評価が高かったわけです。しかし、19世紀の終わりごろから写真や科学が浸透し始めるや、絵画と実物との「酷似性」は、意味がなくなります。絵画の存在意義そのものが低下してきます。これまで画家たちの顧客だった教会や権力者からの資金援助も減少します。生活やステータスに危機感を感じた多くの芸術家たちは、絵画に対して新しい価値観を提示する必要に迫られました。そうして、目に見えないものを描こうとするさまざまな新しい美術(近代アート)が現れました。内面を表現しようとフォービィズムやシュルレァリズム、複数の視点から世界を描くキュビスム、速度を描く未来主義などがありました。女性が絵画の世界に入り込めなかった時代、フェミニズムの萌芽がまだ成長できなかった時代には、男性画家たちは、女性の身体を切り刻んで、もの(物)化することで、抽象絵画を完成させたかのような過ちを犯してきました。そんな近・現代における抽象絵画の長い時間帯もありました。フェミニズムからの追及が届きませんでした。

フェミニズム・アートの時代

フェミニズムは、あらゆる性差別からの解放を目的とします。フェミニズムは女性が男性と同様の権利や地位を得るために開始した活動に始まりましたが、その歴史は複雑で多様です。19世紀末から20世紀初にかけて起こったフェミニズムでは、女性の参政権、財産権、相続権などの公的な権利保護や女性の高等教育への門戸開放を求めました。第2次世界大戦後の1960年代以降のウーマン・リブでは性差に起因する差別的扱いすべてを解放の対象としました。ウーマン・リブは、女性が男性と平等な権利を求め、性に関する自己決定権を主張する運動です。中絶権や避妊の自由も重要なテーマでした。1990年代以降のフェミニズムでは、ジェンダーの多様性を重視し、LGBTQ+の権利やジェンダーの自由を追求しました。
芸術の世界への参入を認めらなかった女性たちは平等を求めて活動し、芸術の世界で躍進し始めました。女性たちが社会へのメッセージを込めた芸術、それがフェミニズムアートです。1960年代後半に生まれたフェミニズムアートは70年代から80年代にかけて活発に議論され、実践され、「現代アート」へとつながっています。抽象絵画での発言も続いています。抽象絵画が世界的にも進み始めた頃、男性画家たちから女性には、「現実の事象を抽象化する能力はない」と言われてきた時期があり、フェミニストたちからの反撃が続いていました。

女性と抽象画

東京国立近代美術館で「女性と抽象」展が開催されました(2023年9月20日~12月3日)。女性のアーティストによる抽象芸術をテーマにしたこの展覧会は、既存の美術史における「抽象芸術」の枠組み自体を問い直すとともに、女性のアーティストによる抽象表現を再評価する試みが進みました。この展覧会は3つの章で構成されていますが、第1章では「女流画家協会」からの作品で、戦後から現代までのコレクションから多様な抽象表現を紹介しています。私の好きな三岸節子さんの絵も多くはそれに該当します。これらのコレクションは、女性画家の発掘を伴いますし、絵画の世界のジェンダーバランスを考えるきっかけになります。とても興味深い記事がネットに掲載されています。
女性と抽象 – 東京国立近代美術館 (momat.go.jp)

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