2024年秋、日本の政治と企業は変わるのか(その2) NPO活動を振り返る
2024/10/17
NPO女性と仕事研究所がCSR(Corporate Social Responsibility)活動を始めたころから今を探る
今回はその2です。CSR活動はSRI(Social Responsible Investment)へとつながっていきましたが、その2では、CSRとSRIを繋ぐ活動から、あえなく撤退していった経緯をお話しします。
CSRと女性(『「CSR経営―企業の社会的責任とステイクホルダー」
第5章』)よりステークホールダーとしての女性
企業と女性の係わりには、消費者としての女性、企業の従業員としての女性のほかに、株主・投資家としての女性の立場もあります。女性の投資家がどの企業に投資しようかと思うとき、やはり企業で従業員としての女性が十分力を発揮できている企業を選びたいものです。また女性に開かれている企業への投資が増えれば、女性の活躍はさらに拡大されます。つまり、ジェンダー平等を実施する企業への投資が、投資家に利益をもたらすだけでなく、平等で公平な社会を建設することにつながるのです。世の中を変えながら、投資で儲けるためには、調査などで指標に基づき企業の実態が明らかにならなければなりません。指標がなければ、投資先の企業を選ぶことはとても難しいことです。そこで、ステークホールダーとしての女性に向けて、投資先の企業の評価を見えやすい形で提案しようと考えていたのです。私たちは、NPOとして企業の調査を担当し、ベルギ―の投資信託会社と連携してSRI事業を進めようとしていました。
女性に開かれている企業を評価し、投資先として選択しやすくしようというのが私たちのCSR活動でした。しかしこれがなかなか進まなかったのです。1990年代における日本の企業は、ジェンダー平等(多様性)には、あまり関心がなかったという深刻な問題がありました。さらにジェンダー平等を指標にした投資信託が商品として売れるかどうか課題もありました。
アメリカや欧州では1990年以降エコファンド(Green Fund)やwomen’s Fundが稼働していました。日本でも1999年に「日興エコファンド」が第1号エコファンドとして発売されましたから、women’s Fundも商品化できるかも知れないという予測を立てていましたが、実際のところ、調査に協力してもらえる企業はすくなく、アメリカなどのように、参加することを誇りに思っている企業はレアケースでした。
「女性企業の活躍についての表彰は厚労省の仕事」というのがごく一般的で、NPOが表彰やSRIの調査をする(できる)なんて言うことには、信じられていなかったようでした。信用されていなかったんでしょうね。
「ウィメンズ・エクイティ・ファンド(女性差別をなくすファンド)Women’s Equity Fund」のこと
1994年、2人のアメリカの女性が「女性差別をなくすファンド」という投資信託を設立しました。女性を差別する企業を廃し、女性を積極的に活用する企業を選んで、そこに投資するファンドです。規模は小さいけれど実験的、個性的な投資信託として発展しました。女性活用の有無は、第1には、投資先企業の社会性にかかわる判断です。雇用の場では女性の差別はまだまだ多いのですが、このような投資信託をつくれば働く女性の支持が得られます。このことは、女性の雇用差別をする企業への異議申し立てであり、女性を活用する企業の方が投資先として利益を生むという主張なのです。「よい企業の存在は、周囲に幸福な人間の輪を広げる。社会を変える力を強くする」のです。当時の私とNPOは、これこそNPOの究極の仕事(活動)だと思い意気込みましたが、現実には稼働するには困難でした。準備活動だけは進めたのですが、結局、撤退してしました。NPO側にも順調な見通しが立ちませんでした。
エイミー・ドミニさん紹介
「よりよい投資はよりよい社会をつくる」。これはエイミー・ドミニさん(社会的責任投資会社の創設者)の言葉です。
書籍の翻訳は2002年出版されました。序文から抜粋して紹介します。
「より良い企業に投資し、より良いオーナーとなり、より良い隣人となることにより、社会的責任投資家は確実で持続的な影響を持ち続ける。ネガティブな影響を与えている企業が判れば、企業が何をすることが望まれているかを明らかにし、フォローする。経営者と面談して問題を指摘するところまできちんとわれわれが株主の責任を受け止めるならば、環境の行動基準や原料調達の基準が更新されるであろう。より良き隣人として振る舞い、地域開発の貸し出し組織をサポートするならば、ローンを借りたい人々の生活に好ましい影響を及ぼす。
私はこの本によって、世界中の投資家が誇れるような未来を築くのに個人として使えるツールを提供できればと思っている。社会的調和は早急に回復されなければならないし、金融が政府や市民社会や消費者、そして環境を支配してはならないことをわれわれは知っている。為すべきことの重要性と地球が小さい存在で時間もそれほどないことも知っている。社会的責任投資は、より良き明日を築くのに参画しようとする人たちに、希望と行動の指針を与えてくれるのである。(日本の読者への序文エイミー・ドミニより)
今後の企業の経営課題(NPOに係わった者の願いを込めて)
日本が経済成長を望もうとすれば、政策の方向転換が必ず必要です。ただ政策の転換をするには、政治的勇気が必要なのです。ただそれだけです。気が付いた大人は、次の世代、子どもたちに対して実行しなければならないはずです。
◎少子高齢化は避けられないこと
少子高齢化によって労働力人口が減少しており、生産能力が不足して来ましたが、もう少子高齢化は避けられない課題として受け入れねばならないところまで来ていると思います。現代では、従来のような成長は困難です。少子高齢化社会には、少数精鋭による、新たに労働生産性の向上が求められます。
◎ジェンダー平等の処遇を
労働人口の減少の中で、なぜ女性の待遇を平等にできないのか、まったく府に落ちません。日本のジェンダーギャップ指数(スコア)は、2006年の第1回は0.645で、まだ115カ国中80位だったのです。2007年には91位。ところが2023年は125位、それも雇用分野(賃金・管理職など)で最低になっています。
1990以降ずっと下がり続けているのは、一人当たりの労働生産性です。1990年は世界20位だったのが2023年は34位にまで落ちています。
男女の賃金格差は、日本はOECD平均の2倍の水準になっています。経済協力開発機構(OECD)のデータによると、男女の賃金格差は、日本は2022年で21.3%です。同年の米国は17%、英国は14.5%と日本よりすくないのです。北欧では10%を下回る国も多いのです。
◎非製造業を中心に新分野の技術教育を
日本が経済成長しないのは、新しい分野の(グリーンなど)技術進歩が停滞しているからです。バブルの崩壊や少子化は他国でも起こっていますが、先進国のなかで30年以上経済成長がゼロに近いのは日本のみです。
日本は過去の成功体験から脱していません。高度経済成長期には豊富な労働力と、設備投資により、大量生産で経済成長してきましたが、今後は、ほかの先進国のように質的な上昇によって経済成長をめざさねばならないのです。ただ日本は、スマートフォンやネット関連サービス、人工知能(AI)などの先進技術で後れをとっているので、付加価値の高い製品やサービスを提供できていません。従来の終身雇用制度を前提にした企業内職業教育では、まったく別産業を目指す新しい技術教育は不可能です。企業外における新しい職業教育制度が緊急に望まれます。
◎「イノベーション(改革)」を、経営、組織風土の改革にまで
日本では、「イノベーション(改革)」を、経済社会を根幹から変えるではなく、単なる「技術革新」「新商品開発」とだけ考える傾向があります。しかし、イノベーションはもっと人的な経営の在り方や組織風土などにも及ぶ必要があります。そうでなければ社会改革は進みません。「イノベーション」実施のための資金調達には、安定的な資金調達が必要です。助成金などは一時的な支援に過ぎないため、長期的な資金援助が重要です。例えば、大学ファンドのような長期的な資金運用の仕組みが注目されています。これにより、安定した財源を確保し、持続可能な支援を行うことが可能です。
また、投資信託(SRI)やNISA(少額投資非課税制度)などの制度も、長期的な資産形成に有効です。NISAは特に、非課税で投資ができるため、将来の資産形成に役立ちます
◎ 希望が持てる未来には、チャレンジ精神が湧く
新しい目標にはチャレンジが必要です。再度のチャレンジが必要になることもあります。日本では不確実な目標にチャレンジして、失敗することの代償が大きすぎるという状況があります。そのためには、チャレンジが報われる社会、希望が持てる未来をつくることが重要といえます。
◎2006年民主党の「新成長戦略」を参考に
(今ちょうどいい時期なのかもと思います)
7つの戦略分野と21の国家戦略プロジェクト
1.グリーンイノベーション
a. 電力の固定価格買取制度の導入による再生可能エネルギー市場の拡大
b.「環境未来都市」構想 c.国産木材の利用促進
2. ライフ・イノベーション
a.新しい医療の実用化促進のためのコンソーシアムの創設
b.医療滞在ビザの発給と外国人患者の受入れ
3. アジア
a.アジア諸国へのインフラプロジェクトの売り込み
b.法人税率の引き下げ、対日外国投資優遇税制の導入
c.大学教育のグローバル化、高度外国人材の受入れ拡大
d.世界標準設定競争で勝つためのロードマップの策定、知的財産権 保護の強化
e.自由貿易地域を通じた経済連携 の推進
4. 観光、地域活性化
a.「総合特区制度」の創設、オープンスカイ政策の推進
b.観光ビザ発給要件の緩和
c.中古住宅及びリフォーム市場の拡大
d.公共施設の民間開放と民間資金活用事業の推進
5. 科学、技術、情報通信
a.技術分野における緊密な産学官連携体制の構築
b.情報通信技術の利活用の促進、国民ID制度の導入
c.政府関連研究開発投資の充実
6. 雇用、人材
a.幼稚園と保育所の一体化
b.「キャリア段位」制度とパーソナル・サポート制度の導入
c . 市民によって支えられる公共サービスの構築(新しい公共)、寄付 及びNPOに対する税制改革
7. 金融サービス a.総合的な取引所(証券・金融・商品)の創設
(8これは内閣による以下の2つの公表物に基づく)
「新成長戦略 ― 強い経済、強い財政、強い社会保障」(2010年6月18日)http://www.npu.go.jp/policy/policy04/pdf/20100618_shinseityou_gaiyou_eigo.pdf)「新成長戦略について」(2010年6月18日) (http://www.kantei.go.jp/foreign/kan/topics/sinseichou01_e.pdf )
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