2024年秋  世界中で選挙の季節、日本の場合 衆議院議員選挙(第50回)と「選択制別姓結婚」制度(その1)

   

自公過半数割れの結果を踏まえて

今回の選挙はちょうど50回の節目の選挙でした。最大の争点は腐敗した自民党政権の裏金問題を廃絶するかどうかでしたが、忘れてはならないのが、世界に遅れを取っている日本のジェンダー平等にかかわる「選択的夫婦別姓制度」が実現するかどうかの選挙戦でもありました。
結果として、自民、公明両党の与党が定数465議席(小選挙区289、比例代表176)の過半数(233)を確保できず、215人にとどまり、野党が250人の当選者を確保しました。1344人が立候補し、うち女性候補数は314人で過去最多となりました。当選者の女性も過去最多の55人になりました。

選択的夫婦別姓の「早期実現」と選挙結果

「選択的夫婦別姓」に関しては、各政党で意見がかなり分かれています。図示すると以下のようになります。

選択的夫婦別姓に関する各党の立場一覧表(BuzzFeed Japan)

家父長制社会の根幹としての戸籍制度
「選択的夫婦別姓結婚」を容認することは、同性結婚を認めることにつながっていきます。2024年10月30日 東京高裁は、同性同士の結婚を認めない法律の規定について「差別的な取り扱いだ」として憲法に違反するという判断を示しました。全国で起こされた同様の裁判で2審の判決は2件目で、いずれも憲法違反という判断になりました。最高裁でどうなることか。「別姓結婚」については最高裁判決は2015年、2021年、ともに否定しています。
さらに、「選択的夫婦別姓結婚」を容認することは、「戸籍制度」を崩壊することにつながります。「戸籍制度」は明治政府により強固に確立され、天皇を頂点とする家父長的国家観の基礎をなすものです。家父長制度は、一家の長である家長(男)が、その他の家族に絶対的な支配権をもつ制度です。また男性の女性を支配する権力構造をつくってきました。だから「夫婦同氏」「戸籍制度」が揺らぐことは、男尊女卑的家父長制社会の存続を願う人たちにとっては、重大な危機と映るのです。「選択的夫婦別姓結婚」はさらに続いて、日本の皇室典範で、天皇は男系の男子のみと定められていることに異議を唱えるのは当然のことです。「皇室典範」の憲法違反は、即刻改められるべきなのです。女性天皇の誕生は当然のことです。

私の結婚と同姓への困惑
1964年(昭和39)に結婚した私も同姓には、なかなか踏み切れませんでした。結婚式は、人前結婚式(会費制)と称して、神様なし、媒酌人なしで、友人たちの前で結婚の約束を誓うという企画にした私たちでした。
まず憲法24条をみんなの前で声を合わせて読みあげました。「婚姻は両性の合意のみに基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」と。それから約束事として「夫は掃除と洗濯を担当し、妻は食事を担当すること」「もしこれらの約束に反して、二人が分かれるに至った時には、保証金などの財産は妻3分の2、夫3分の1の割合で分割すること」と披露しました。家事分担の宣言のところぐらいから、参加者がくすくす笑いだし、私たち二人は真剣そのものだったのですが、会場は歯止めがきかないほど笑いの渦になってしまいました。その後の実生活でも、家事労働の分担を巡って争いは絶えませんでした。それだけ大問題だったのです。
後日この話をこの憲法24条の草案を作成したベアテ・シロタ・ゴードンさん(2012年死去)のお嬢さんニコル・ゴードンさんにニューヨークのご自宅で話したら、「母が生きていたらとても喜んでくれたと思います」といわれました。2019年1月のことです

賛成する政党の当選者だけを単純に足し算すると、立憲民主党148、公明24、共産8、国民28、れいわ9、社民1で合計218人、反対する政党の当選者数は232でこちらの方が多数派になってしまいます。最近のNHK世論調査(2024年5月)では、「選択的夫婦別姓結婚」に賛成が62%、反対は27%と国民の意識はもう「選択的」の方へ進んでしまっています。年代別にみても60代以下ではいずれも「賛成」が70%台で「反対」を大きく上回っています。70歳以上では「賛成」が48%、「反対」が40%となり、いずれの年代層でも、国会議員の感覚がすでの遅れていることがわかります。こんな意識のままで国民を代表していると言えるのでしょうか。甚だ疑問です。日本国憲法に「男女平等」を加えることに力を注いだのが、当時まだ22歳のウクライナ系アメリカ人女性、ベアテ・シロタ・ゴードンさんだったのです。22歳で連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)民政局に所属し、GHQ憲法草案制定会議のメンバーとして日本国憲法の人権条項作成に関わりました。現行憲法では第24条、第25条、第27条に生かされることになりました。
そう、私たちの頃は、結婚を親が決めるのではなく2人で決めるとか、夫婦が平等の立場であるとか、家事を分担するなどは極めて現実的課題だったのです。別姓的結婚を選ぶかというよりも切実だったとも言えます。

しかし、実際に「婚姻届」をどちらの氏にするかとなるとやはり困惑してしまいました。自分の人格がなくなってしまうような喪失感、自分が忘れ去られるような恐怖感がありました。それで私の場合は表札の代わりに自分の大学院生の名刺を張り付けました。すると隣近所から、「今度来た人たち何か問題がある人のようよ」という噂が広まり、これにも閉口しました。苗字が一つでない人というのは問題ありの人ということのようです。そこで夫が言い出したのは、「僕は国家公務員(司法修習生)なんだから、法律違反はできないよ」という言葉でした。それを言われちゃ、もうおしまいね。やはり男性中心の結婚になっていくわけでした。

女性学の教師として夫婦別姓をどう伝えたのか

1981年から私の女性学教員の時代がはじまります。女性学は東京のお茶の水女子大から始まり、関西でも1980年代から始まりました。私も1981年から京都精華大学で「女性と労働」「世界の家族」「西洋女性史」「日本女性史」などの授業を担当しました。同志社大学での女性学は、全学を対象に神学部のクラーク記念館(旧神学館)でスタートを切ったところで、私は1983年から始めました。私は、日本の家父長制度の源泉である「夫婦同氏結婚」こそ、女性を家・家事労働・ケア労働に縛りつけるものだと強調していました。自分が果たせなかった別姓結婚を悔やみながら。
教室だったチャペルは、1894年1月建造の美しい建物でした。新島襄が逝去後、米国のニューヨーク州ブルックリン市のB.W.クラーク夫妻から、神学館の建築費として10,000ドル同志社に寄付され、クラーク記念館となりました。2007年に大規模修復工事が完成しました。
ここに集った学生たちとは、今も確かな交流があり、昨年の私の金谷千慧子のフェミニズム展覧会には揃って参加してくれました。彼らのほとんどが夫婦別姓結婚を実現しています。なかには妻の姓にしているメンバーもいますが、これほど徹底した別姓カップル集団は少ないと思います。彼らになんの不具合もありません。家族の絆が壊れるだとか、子どもの姓と違うのはどうかなど心配する向きは全くありません。近年別姓結婚が増えており、それが多数派になってきたかもしれません。

「女性学」を担当して1年後に受講生みんな(18人)で「まとめ」を作成しました。ワープロが普及し始めたころで、入力でも、校正にも、編集にも時間がかかり悪戦苦闘でしたが、印刷物が完成した時はみんなで大喜びでした。一冊500円で販売活動もしました。その後の「女性学講座」で年度末に活動記録集を作成するというのは、私の定番になりました。
この第1期の受講生の一人と「国連女性の10年」ナイロビ世界大会に参加しました。彼女は女性起業家として大成功しています。

次回は同じく「2024年秋 世界中で選挙の季節、日本の場合」というテーマですが、「選択的別姓結婚」制度、戸籍制度、皇室典範のことを国連の女性差別撤廃委員会からの勧告とともにお伝えしていきます。

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