夫の死にあたふた(1~3)補足1 理性が導くところなれば、どこへなりとも 参りましょうぞ   菩提樹一葉

   

 

夫は語学には長けた人でした。英語との最初の関わりはカソリック系の中学校でシャワーを浴びるように降り注がれた日常英語からだったようです。公立高校では当然英語は最も得意教科となり、受験にも有利に働きます。その後はロシア語、スペイン語、ドイツ語へと広がっていったようです。法律家になって以降は実践で語学を使うチャンスはあまりなかったようで、私が子どもの学童保育の資金調達のためにやっていた学習塾で、夫はもっぱら英語の教師を担当しました。手元に、夫が若き日にドイツ語を学んでいたころのマルクス・エンゲルス著「マニフェスト(共産党宣言ドイツ語版)」があります。独文の単語には英語で注釈をつけていて、さすがだなーと思います。裏表紙に菩提樹の葉が1枚、そこに彼のサインがあります。「理性が導くところなれば、どこへなりとも参りましょうぞ」と赤ペンで書きつけてあります。なるほど、これが当時の彼の「決意・結論」だったのね、と思ったりしています。

さて今回のテーマは、この「理性の導くところどこへなりとも参りましょうぞ」についてなのです。

ご存じのように、「知に働けば角が立つ、情に棹させば流される」、これは夏目漱石の草枕の冒頭文ですが、漱石はとかく人の世は住みにくいと嘆きつつ、この文を書いています。理性だけで割り切っていると人とは衝突するし、他人の感情を気遣っていると、自分の足をすくわれて、何も前に進まないという意味です。
組織や活動は合理的でなければ機能しません。しかし理詰めであれば組織や活動はそこで動く一人ひとりの人間関係をぎくしゃくさせます。しかし、情に流されれば組織や活動は機能しません。これは政治の世界でもよく言われることです。また若い時代は理性的に行動するが、高齢期になると人は丸くなり、情に流されながら生きていく、とも言われます。

私が感じているのは、この理性・知性と情(非理性)だけでは、残りの21世紀、コロナ禍後の社会は、どうにもこうにも成り立っていかないのではないかという気がしているということです。従来の役割分担の社会では、公的な場は「理性や知」が働き、私的な家族や官能やエロスの場では「非理性・情」が作用するといわれたものです。そして役割分担の社会で、公的な世界は男性が「知」と「理性」で役割を担い、私的な世界では女性が「非理性・情」の世界を生きるという分担があったと思います。しかし、この2つの項目だけでは、今からの社会は、まったく動かないと思うのです。ここに3つ目として、もう一つ、感性というか、肌触りというか、触感というか、実感として納得できるというかそういうものが揃わないと、今解決を迫られている政治的課題や、学問や経済活動や、家族生活やエロスや官能の世界にも近づかないのではないかと思っています。男性の理性に基づいたとされる独りよがりだけではこれからの社会は何も動かないと思うのです。これは、日本の男性の多くが縛られている「男らしさ」の神話から解放されねばならないという意味でもあります。

ここからは政治の世界に限定して書きます。政治以外のその他の分野については、後日にします。近年、よく政治の世界ではハードパワー(軍事力・組織力)だけでなく、ソフトパワー(文化・価値観を共感する力)こそが重要になっているといわれます(ジョセフ・ナイ:ハーバード大学ケネディスクール教授)。そしてこのソフトパワーは女性の政治リーダーが多く持ち得ているものだと言っています。特にソストパワーが政治の世界には必須だといわれています。日本の現政権の政治家は自分の言いたいことだけ言っている、相手が共感するかどうかなどどうでもいい、わからなければわからない奴が無能なだけだ、放置しておけ、といわんばかりです。このコロナ禍の対策はすべてがそうです。それが一層あからさまになりました。

政治や経済やエロスの世界だけでなく、私は油絵を描いていてもいつもそう思います。

圧倒的な絵画の写実性などのスキルも必要でしょうが、それだけでは、絵は描けない。絵は表現活動なのですから観る者に対しての共感性がなければなりたたない。そして、さらにあふれ出るばかりの自らのパッションがなければ絵は描けないと感じています。それらの3要素が必要だと感じています。

この知性・理性と感性(価値観・文化の共感力)とパッションの3つを併せ持ってこそ、今差し迫っている世界の変化・改善に貢献できると思っています。とくに日本の政治についてはそう思います。

従来の知性、理性中心の政治リーダーでは改革は望めないと思います。また現在、必要とされている変革はとてつもなく急がれるものですから、適格で早急な具体的行動が必要であり、それをやれる能力を併せ持つリーダーの登場が必要だと思います。

今、コロナ禍のさなか、日本ではオリンピックが行われようとしています。コロナとオリンピックをめぐっては政治の失敗を改善し、壊れようとしている民主主義を立て直さねばなりません。気候変動にも待ったなしの対策を打たねばなりません。資金援助の不足や就業環境の悪化で、貧困の悪循環が起こっていて、女性と子どもの貧困にも対応しなければなりません。ワクチンも打てない、食料もない地域にも対処しなければなりません。世界の女性や子どもの最悪の事態を回避しなければならないのです。

コロナ対策も地球破壊や人類滅亡を回避できるのは、理性・知性を信奉するリーダーではなく、また「売られた喧嘩は受けて立つ」などといっている脅しをかけているつもりで、情に流されている現政権の幹部たちとも違う、ソフトパワーの持ち主、文化価値観を共感する能力を持つ女性のリーダーがものすごく大量に出現してほしいと思っています。もうすでに能力を持つ女性は現存するのだから、政治の世界で活躍することを止めないでほしい。飛び出しやすくするよう応援しなければならない。今のところ政治への飛び出しは選挙しか手段はないのだから、次回の選挙は大切。かならず投票に行こう!!

 - ブログ

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

アフガニスタン女性のデモはどうなるか

アフガニスタン女性の「ブルカ」姿 同時多発テロから20年、2021年8月15日、 …

もう一つの2013年─4月から油絵再開

20数年ぶりに油絵を再開しました。 右脚が歩きにくくなって、このまま車いすになっ …

フェミニズムとわたしと油絵(2013~2023)(その5)

NHK日曜美術館「ウォーホルの遺言 〜分断と格差へのまなざし〜」(2023.1. …

ヌードの画題が出ました

どうしたものかと迷ったあげくの私のスケッチ 永年、画家(男性)とヌード(女性)の …

雛祭りという優しいひびき

「おひなさま」には、なんとも言えない懐かしさと優しさが響き合います。女の子だけに …

森喜朗(83歳)氏の女性差別発言から1か月半、何が変わったか

「わきまえておられる」に立ち向かおう 東京五輪・パラリンピック大会組織委員会会長 …

コロナ禍のリーダーシップ (その4 フェミニン・リーダーシップ)

女性リーダーの国は「幸福度」ランキング上位    世界幸福度ランキングとは 世界 …

「千の風になって」の原風景

お医者さんに講演 9月23日、富山県医師会で「予防医学の見地からのアサーティブト …

2024年秋、日本の政治と企業は変わるのか(その1)   NPO活動を振り返る

NPO女性と仕事研究所がCSR(Corporate Social Respons …

「あなたがいてわたしがわたしになる─『人称』と孤独」平子義雄氏著(郁文堂2012年)

今読んでいる本は、平子義雄氏の「あなたがいてわたしがわたしになるー『人称』と孤独 …