本屋さんに並びました 『「働くこと」とジェンダー─ビジネスの変容とキャリアの創造 』(明石書店)

      2014/10/23

新しい日本の復興にNPOと女性の力を活かしたい。

そんなつもりで書きました。関西大学の「法女性学」のテキストにしています。働くことは人生のライフラインです。しかし今なお、仕事を得ることは大きなチャレンジ(Challenge)です。これから変わりゆく社会(Change)に仕事で立ち向かう人たちに勇気(Courage)を!

2011年4月発刊最新本。今回は「はじめに」を紹介します。

堂島ジュンク堂「ジェンダー論」の書棚に並びました(4月20日)

堂島ジュンク堂「ジェンダー論」の書棚に並びました(4月20日)

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女性にも男性にも、男性的資質と女性的資質がある。今後は、その中の女性的資質が社会を動かすのではないか

女性学を担当して

日本での女性学の講義は1970年代の後半、お茶の水女子大学からだといわれています。私の場合は1981年から「女性学」の講義を持ちました。「女性学」が原論でその各論に「家族と女性」「女性と文学」「ジェンダー経済学」「フェミニスムアート」などが増えてきました。私が「法女性学」を持ったのは2000年以降です。女性学の分野は広がっていますが、専門科目や必須科目になりにくいのは同じ状況です。女性の視点から従来の学問形態をとらえ直し、性差別分業による社会構造を批判する女性学は、学問上も大きな成果を出しています。従来、人類の半数を占める女性たちは、無視されてきたのでした。それを女性の視点から社会現象を分析し直し、新しい理論立てをしたのです。新しい理論は、男性たちの合意を取り、行動への参加を促しながら進みました。男女両性が能力を発揮した方が、未来社会は進歩するという仮説が合意に近づいたということでもあります。しかし、未だに既存の学問は一流で、女性学はいわば二流の位置づけになりがちです。また女性学は女性解放の運動・実践と深い結びつきがあり、学際的性格をもちます。且つ自らの生き方との整合性を求められるので、個人の生き方も含んで学問を探求せざるを得ないということでは、きびしい自己規律が必要となります。

「フェミニズムの風は西から」といわれるように、アメリカのカリフォルニア大学はフェミニズムのメッカといえます。ウーマンリブもメンズリブもカリフォルニアが発祥の地でした。1967年にフェミニストスタディーズの最初のコースが現れてから、今では全米すべての大学でフェミニストスタディーズコースがあります。ハイスクールでもごく当たり前になっています。男女平等社会を実現するために、フェミニストスタディーズ(ウーマンズスタディーズ、ジェンダースタディーズ、女性学)は、今や各論の時代を迎え、各国でも社会に根付いてきました。政治に、教育に、労働に、起業に、まちづくりに、高齢社会のあり方に、医療に、アートに、音楽に、小説に、年金に、子育てに、性意識に、企業の社会的責任においても、です。

女性か男性かの対立構造になる授業ではなく

「女性学」は女性のエンパワメントにつながる理論として始まりましたが、やがて女性も男性も受講する授業に定着していきます。その後1990年代からでしょうか。フェミニズムを敵視するバックラッシュの嵐と相まって、「男を敵に回した学問なんてありえない!」とか「フェミニズムは宗教だ」という意見が出てきます。女子学生も「今まで差別なんか感じたことがないのに」と主張します。女性学は頭脳・理論というよりそれぞれ個性と感性を伴う学問であるという宿命ゆえに、教室がまるで個人的な言い争いの場になりえます。「個」と「全体構造」を統合する語彙が特に日本語には不足しているのを感じます。個人と関わりながら、それでいて全体構造を言い当てる語彙の構築が課題なのだと思います。セクシャル・ハラスメントなどもそうです。特にセクシュアリティに関しては語彙の不足を感じます。女性学の教育手法の開発が重要な課題だと感じています。学生や聴衆を引き込む参加型授業の展開できる力量が必要です。主題やテーマはより身近なものを取り上げ、世界的視野で持論を展開できる力量が必要だと痛切に感じています。

労働法を専攻したころ

もの心就く頃から、女でも仕事をして生きていくと堅く決めていました。男女平等や民主教育は大きな後押しになりました。労働法を専攻しようと決意をしたのは、女性労働者が次々と裁判を闘っていたころでした。住友セメントの鈴木節子さんの「結婚退職制は憲法違反」の裁判は、こんなときでした。住友セメントは、女性社員を補助労働と位置づけ、採用時に結婚または35歳に達した時は退職する旨の念書を提出させていました。これに基づき鈴木節子さんを結婚を理由に解雇したことが争われたのでした。結婚退職制を争う最初の判決であり、以後一連の男女差別裁判に大きな影響を与えたのです。東京地裁は、この取扱いは結婚の自由を制限し、法の下の平等に反する憲法違反である、としたのです。新聞は一面トップで全面を飾っていました。その活字の大きさをはっきり覚えています。もちろん鈴木節子さんの全身姿も白黒写真でした。私はゼミでこれを報告すると名乗り出ました。労働法って、女性が働く社会に変えられるかもしれないと、大きな期待をもったのでした。私も自分のためだけに生きるのではなく、多くの人に貢献できる生き方をしようと誓ったものでした。

緊急の課題をまえに

女性と仕事に関して緊急の課題もあります。OECD(経済協力開発機構)は、「雇用アウトルック2008」を出しました。全体としてみると加盟国の平均就業率は戦後最高に達していますが、女性の就業率が男性より20%低いと指摘しています。なかでも日本については、女性の就業率が低いといっています。日本女性の学歴は男性と差はなく、加盟国で3位(第1位フィンランド、第2位カナダ)なのに、就業率は男性の93%に比べ、女性は67.4%と差が大きいのです。OECDでのトップクラスの国、スウェーデン、デンマーク、フィンランドなど北欧諸国と比べると日本女性は約15ポイントも下回っているのです。日本の特徴は、男性労働者との著しい格差です。日本は貴重な人材を著しく無駄にしており、特に人口高齢化の進展という現状を考えると、早急に対策を講じる必要がある、といっています。

日本の女性は、労働市場における女性差別にさらされていますが、「差別禁止法」をさらに改善することが必要だといっています。なかでも裁判での立証責任の転換を実施することだと提案しています。裁判をしても多くの場合、勝ち目がないのです。紛争を解決する手段としては効果が少ないのです。そこで和解や調停になるのですが、これでは訴訟を起こされるという恐れが少ないので和解や調停さえも大きな効果を発揮しないのです。オーストラリア、カナダ、米国など多くのOECD諸国がやっているように立証責任の転換をすべきです。

また、厳格な労働市場規制、正規・非正規の「労働市場の二重性」などがあるとも分析しています。女性の方が男性よりも非正規の低賃金雇用を強制されやすい強固な労働市場の二重性や、育児支援の不足、若年層の母親が常用雇用に就こうとする財政的インセンティブ不足が背景にあります。若い母親はもっと高い賃金がほしいと最初から思わないあきらめの気持ちになってしまっているのです。
日本は、女性の就業問題は急速に改善すべきです。人口問題をはじめ、いろいろ切羽詰まってきているのに、です。スピードがのろいのです。みんなでスピードを上げる活動をしていきましょう。

裏表紙をご覧下さい。3つの「C」Challenge  Courage Changeと記していますが、「ひとり一人が勇気を持って、変化に向かって、チャレンジしましょう」という意味です。そして行動する「わたし」の自信をつくるのは、「仕事」です。

 - メディア掲載

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