育児の値段は「年収」237万円?

   

明治生安田生命が子育てに関する調査の結果を発表した(2017/9/13)。調査は20~59歳の子どもがいる全国の既婚男女が対象で、8月中旬にインターネットで回答を募り有効回答者数は1032人だった。それによると、「0~6歳の子どもを育てている場合」に、「もし賃金が出るとするならいくらだと思うか」という質問に対して、女性の平均は「238万円」、男性は若干少なくて「236万円」だったと報じている。この金額は保育士の平均年収(平均年齢34.8歳)が「275万円」で、それより低いが、いずれにしても「子育て」は、保育士の仕事としても、母親の育児としても低く見積もられているものである。保育士もやはり出産育児で退職するという事情は女性労働の現状と同じ流れの中にある。

育児の賃金を「0円」と回答した割合は、女性が3%、男性は11%だった。なぜ「0円」なのか、その理由は不明であるが、男性の方が多いのは、日ごろの育児への意識や協力度合いが低く、育児の大変さが理解できていないのではないだろうか。男女の回答分布では、男性の方が低い方に広がっている。男性は育児労働を軽んじる風潮も根強く残っている可能性がある。子育てでの大変なこと(苦労すること)の質問にも、「育児による精神的ストレス」(男性17.6%、女性27.5%)や「睡眠時間が削られる」(男性14.5%、女性19.6%)など、子育てでの大変さに、男性はあまり気がついていない。「イクメン」などという言葉でもてはやしているが、男性の子育ては、結局のところ「お手伝い」であり、「子どもと遊ぶことが子育てだ」ぐらいに思っているのではないか。

例えば離乳食の材料を購入してきて調理して、食べさせ、食事で蒔き散らかった床を掃除して、びしょびしょになった衣類を洗濯して、はじめて食事をさせたことになる。

育児の値段に関連して家事労働をいくらと換算するかをめぐっては、昔から幾多の論争が繰り広げられてきたが、経済企画庁の「あなたの家事労働の値段はいくらですか」との問いかけに対して、専業主婦の場合で年間評価額は276万円と試算したことがあった。この金額はくしくも現在の女性労働者の平均年収と同じ程度(というよりやや低い)ということが極めて問題だと思うのである。総務省調査による2012年の男性の年収は502万円、女性は268万円である。「家事労働に賃金を!」などと、ここで叫ぼうとしているのではもちろんない。

未だに女性の賃金が男性のほぼ半分であることが問題なのである。女性の賃金は2014年で男性の52.9%、35年前の1979年では51.1%である。この35年間でほとんど変化・進展していないのである。女性の活躍だの女性が輝くだの口先だけの公約を何度でも公言していても、結果的には何も進展させない政府である。

そこで少なくとも次の値段を提案したい。

●仕事をしていない女性の場合は、512万円を年間収入と考えること
(家事労働分276万円と育児労働分236万円=512万円)
●仕事をしている女性の場合には、780万円を年間収入と考えたいのである。
(家事労働分276万円と育児労働分236万円と賃金年収268万円=780万円)
●男女平等賃金になれば女性の年間収入は1014万円になる。
(家事労働分276万円と育児労働分236万円と賃金年収502万円=1014万円)

少なくとも女性の働きが男性の502万円を下回っていることなどありえない。もちろん仕事の賃金に関しては、男女平等待遇が当たり前だが、現状においても女性が担っている家事や育児や仕事を軽んずる意識の払拭を徹底しなければならない。

女性は男性の2倍働いているのに、男性の半分の給与しか得ていないのである。これは国連がすでに何十年も前から指摘していることである。

 - 女性と仕事, 女性と政策

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