「もしトラ」が現実になり、しかも「ガラスの天井」も崩れず  アメリカ大統領選挙2024

   

世界の不安はどうなるのか

2024年11月7日 8時17分 、カマラハリス氏の敗北宣言
アメリカの大統領選挙(2024年11月5日)で、トランプが次期大統領に返り咲くことになりました。接戦が予想された選挙でしたが、7つの激戦州をすべて制し、予想外の圧勝で終わりました(実際は僅差だったという説もあり)。問題だらけのトランプ氏がなぜ圧勝したのでしょうか。理解しがたい気持ちです。今後の世界経済の悪化や野放図な侵略戦争の激化、民主主義の危機、気候変動・地球温暖化が加速する今、世界一の大国アメリカが自国のことだけにしか頭が回らないとはなんという狭い了見でしょうか。アメリカの繁栄は多くの他の諸国の犠牲の下に成り立っているのですよ。それを思うと暗澹たる気分になります。私などが何かを答えを見出そうとは到底思えない、とてつもない大きな苦難です。
アメリカ国民は、経済不安や、不法移民と治安、ウクライナ・中東の戦争、米中対立などで、「国の現状に満足」は3割以下でした。これらの不満を増幅させたのもトランプでしょう。「これらは全部バイデンのせいだ」という、バイデンの「負の遺産」を引き継いだハリスさんは、バイデンとの違いを示すという課題を、実現できなかったのでしょうか。3か月という期間では、とても難しかったのは事実でしょう。トランプになったらアメリカは希望に満ちあふれる国になるのでしょうか。トランプは国民を絶望の淵に陥らす策略を使って、自分を際立たせ、自分の利欲だけに走るのではないでしょうか。

ハリスさんの敗北にはジェンダーが影響している
女性でアジア系として初の大統領誕生は実現しないことになってしまいました。2016年11月、大統領選でトランプ氏への敗北を認めたヒラリー・クリントンは、「私たちは、あの最も高くて硬いガラスの天井を打ち破ることはできませんでした。しかし、いつか誰かが打ち破ります。その時が、私たちが考えているより早く来ることを望みます」といいました。それから8年。ハリス氏の敗北は、今なおアメリカの「ジェンダーの壁」が影響していると言われます。アメリカは未だに性差別の国で、アメリカで女性大統領が誕生するのはまだまだ先の話なのでしょうか。
今回の選挙で男らしさをことさらに強調したのはトランプ氏でした。「ジェンダー平等と政治」にマイナスの影響を与える結果になったようです。「危険な世界にいるタフな男、それこそが大統領なのだ」「女性には無理なことだ」というメッセージをパフォーマンスが得意なトランプ氏は醸し出していました。多くのアメリカの若者、特に男性がそれを受け入れたのでしょう。投票行動では男性はトランプ氏へ、女性はハリス氏へ分かれたのが特徴でした。特にZ世代(30歳未満者)ではジェンダーギャップが明らかになったと伝えられています。下の図は選挙前の2024/11/01の調査結果です。(読売オンラインニュースより)
●Z世代(30歳未満者)では特にジェンダー格差が広がった

アメリカでは、以前から女性は民主党を、男性が共和党を支持する傾向がありました。これは民主党が中絶を認めることや公民権運動や1960年代以降のフェミニズム運動を進めたのに対し、共和党は反対に保守化を貫いた党派的対立が背景にありますが、2024年の大統領選では、若者だけではなく男女で投票行動の差がさらに拡大しました。
●黒人有権者では
黒人やヒスパニック系の有権者は長く民主党を支持でした。民主党は「公民権運動」やマイノリティの権利を保護してきたからです。ところが今回の選挙では、2020年のバイデン氏まで民主党が90%以上を確保してきたにもかかわらず、ハリス氏は80%前後に落ち込むとされています。

●ヒスパニック系有権者では
ヒスパニック系有権者では、民主党支持お減少が顕著です。共和党支持者に非大卒が多く、ヒスパニック系有権者には非大卒の割合が高く、それが共和党支持の傾向が強まった要因とみられています。
また、経済を重視したといわれる傾向も強く、経済に強いとされる共和党やトランプ氏に票が流れたとの分析もあります。いずれにせよ、ヒスパニック系有権者が共和党に流れる傾向は今回も出現するとみられています。トランプ氏は、伝統的な民主党の支持基盤を壊すことで、激戦州で、主に南部の州で勢いを見せています。
民主党のハリス氏は、投票先へのジェンダーギャップが拡大する中で、特に男性の黒人有権者やヒスパニック系有権者を繋ぎとめることに大きな課題があるといわれています。https://note.com/election_yuki/n/ncdad67c17865

●ガラスの天井を破る女性は近く現れる!
日経ビジネス「ヴェリタス」の最新号2024年12月1日~7日号ダ873号の記事を最後にさせて頂きます(ワシントン=芦塚智子氏)。
調査会社ユーガブによるアメリカの成人対象の調査では、アメリカで、近く女性大統領が誕生すると予測する人は、2024年は、『5年以内に誕生する』が37%、『5年~10年以内』は16%と倍以上が早い時期に、女性大統領が誕生するとみていると伝えています。願わくば早まってほしいものです。
またアメリカの民間調査団体ビュー・リサーチ・センターの2023年の世論調査によると、女性大統領の方がヘルスケア政策の実行力が「優れている」と考える人は45%、「男女同じ」は50%ですが、国家安全保障政策で女性の方が「優れている」と考える人は7%、「劣っている」が14%、「同じ」が68%とかなり課題が残るといいます。
ただ、この度のハリス氏の大統領選挙の闘い方では、女性初を封印し、女性性や女性候補をめぐる多くの固定観念(「優しさ)と「力強さ」のバランス」)の壁を突き崩したとよい評価をされています。ハリスさんがジーンズで現れた時など、私も「あら大丈夫なの」とか思いましたが、ピンクや真っ白のスーツより力強さや当たり前感を感じましたね。ヒラリー・クリントンの2016年の時代とは少し女性性の表出も変わったのだなと感じました。
ともあれ、再びアメリカが良識と知性、勇気、実行力を持った民主主義と人権を体現する国として輝いてほしいのです。それを期待したいのです。女性の大統領出現が早く実現してほしいのです。「フェミニン・リーダーシップ」(後述)が世界中に活かされるときが、少しでも早く訪れるよう私もささやかに頑張りたいです。

〈おまけ〉 「ガラスの天井」の歴史と私の係わり
●『フェミニン・リーダーシップ』(山崎武也訳日本能率協会刊)のこと

「ガラスの天井」という言葉は、アメリカの企業コンサルタントだったマリリン・ローデン (Marilyn Loden) が1978年に用いたのが英語圏での最初だといわれています。マリリン・ローデンは1985年には、『フェミニン・リーダーシップ』(山崎武也訳日本能率協会刊)を著し、「女性が管理職としてリーダーシップを発揮していくにあたって、従来の男性的な管理的・競争的リーダーシップではなく、女性独自の生まれながらの柔らかな能力を活かし、男性の真似ではないリーダーシップを発揮することが、変化の時代に最もふさわしいのです」と書いています。私はこの1冊にとても大きな影響を受けています。
多くの女性が管理職として能力を発揮するには、男性社会が実施してきたリーダーシップでは、女性は疑似男性になるしかないのです。女性はありのままで自在にリーダーをやれないと数の増加は測れないと思ってきました。この本にとても重要なヒントがあります。今も大事に所有しています。

「フェミニン・リーダーシップ」
●ウォールストリート・ジャーナル、「これがガラスの天井」の記事のこと
その後、ウォールストリート・ジャーナル紙が1986年3月に掲載した女性の昇進をはばむ企業文化に関する特集記事で『ガラスの天井』という言葉を取り上げ注目を集めました。このとき、アメリカでは女性の企業での管理職比率は35%%でしたが、記事には「35%にしか過ぎない」と報じています。この記事が出た後、「ガラスの天井」という言葉は、広く世界中で一般的に用いられるようになりました。私はこの記念すべき記事を手に入れようと、NYでウォールストリート・ジャーナル社に赴き手に入れました。下の記事がそれです。
私は講演や授業でガラスの天井の話をするときはいつも、「アメリカでは、女性の昇進に天井はないように見えるかもしれないけど、日本では女性の昇進はまるでコンクリートの天井のように見えなくされていますよね」と、言っておりました。いまだに日本は、経済・政治分野の女性の管理職比率は1割以下です。1986年のアメリカが35%で嘆いているというのに、40年後の日本では、「2020年までに30%程度に指導的地位に女性が占めるように」とした男女共同参画推進本部決定はどうなったのでしょうか。2023年10月現在で課長以上の女性管理職比率は12.7%です。どうしてこんなに遅いのでしょうか。

ウォールストレートジャーナル1986年3月24日号より
●カタリストの「ガラスの天井」調査報告書のこと
1991年には、アメリカで公民権法の修正が行われた際に「ガラスの天井委員会 Glass Ceiling Commission」が議会に設置され、アメリカ国内の女性の労働環境について広範な調査が行われました。具体的に女性の管理職の増加のために動き始めたのです。この調査に係わったのが、NPO法人カタリストでした。
このガラスの天井委員会は1995年に最終報告書を発表し、このなかでガラスの天井を「目に見えないが打ち破ることのできない障壁で、資格や実績があっても女性・マイノリティをキャリアの階段の上層部から閉め出す役割を果たしている」と定義しました。この定義は、女性を含む活発な労働力が経済成長に欠かせないとする立場から国際労働機関 (ILO) が参照してさまざまな労働実態調査を行う際の指標としたため、「ガラスの天井」に対する問題意識が世界各国へ急速に広まることとなったのです。
NPO法人カタリストは1962年女性の再就職支援NPOとしてスタートしましたが、委員会の調査活動の後、1980年代には、企業の女性管理職を増やす活動の支援活動に方向転換しています。女性の活躍に貢献した企業の表彰事業も始めました。カタリスト賞の授与です。そのころ「日米女性ジャーナル」でカタリストの活躍を知り、私と「女性と仕事研究所」は1990年代から何度かカタリストとの交流を深めました。企業と女性の活躍の調査方法も極めて実践的なものでした(ヒアリングのウエイトが多かった)し、NPOとしての資金の確保も優れていました。スタッフは100人ほどいました。私たちは“日本のカタリスト”になりたいと日本での活動方向を模索しました。しかし、日本は具体的に動かないのです。女性差別撤廃条約を批准してさえも、です。2024年度もジェンダーギャップ指数は、世界の後ろの方で低迷しています。経済的分野146カ国中123位です。女性の管理職比率の少ないことが最大の原因です。でもこれからです。諦められていいことではありません。女性の力を信じましょう!
カタリスト(NY)との交流

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