「あなたがいてわたしがわたしになる─『人称』と孤独」平子義雄氏著(郁文堂2012年)
今読んでいる本は、平子義雄氏の「あなたがいてわたしがわたしになるー『人称』と孤独」(郁文堂2012年)というものです。ちょっと甘いムードの書物かと思いきや、日本語文化の世界と英語・西洋文化圏での違いや課題を明らかにするものです。ドイツ思想・文学、言語理論、環境思想の専門家でありながら、噛み砕いた文体で(「ですます調」です)、とてもわかりやすく説得力のある論述です。
「人称とは何か」から始まりますが、人称に関しての前提は、日本語と英語では、英語は「私(I)」とあなた(YOU)で言い分けるのに、日本語は尊敬語や謙譲語が人称の中に入り込んで、結局は言語力としての自己主張が少なくなるということです。つまり、「男も女も子どもも、人間みな等しく、I である。Iは自分の人格のすべてを、YOUは相手の人格のすべてを遺漏なく盛り込んでいる。IやYOUはまさに「人権」の表現です。「人権」とは、人間(人格)である以上まわりから侵されない不動の存在であるという権利です。・・・このことに、日本人は驚いてほしいと思います」(p12)といった指摘から始まり、日本の思想的背景と英語圏の世界との違いを展開します。
音楽や油絵にも言及されています。西洋の油絵には、まわりからの自立性が日本のものより格段に強いという。(確かに!)。日本の表現物がまわりの世界との間で融通し、そこに溶け込んでいきそうになっているのとは対照的だといいます。油絵の遠近法などは、自分を中心にして見たものの見え方を貫いているものなのですから。
日本語(日本の表現物)は、あいまいだというか、主体が明確ではない(揺らいでいる)というか、自己確立が少ないのです。言語は社会的なものですから、言語における共通点は日本文化の共通点ということになります。
書籍の後半、IやYOUが向き合ってこそ人格どうしが呼応しあう世界ができる、さらに3人称も含んで、自然も含んで「みんながいて、わたしがわたしになる」という最終結論に向かいます。
私たちは、東日本大震災後、自然を支配する対象であるなどという考えは、大きな間違いであり、近代以前の日本人はもっていなかったはずだ、と思い直したのです。
この書籍は平子恭子さんから亡き夫氏の著書を進呈していただいたものです。私には章立てや小さな結論の積み重ねから最終結論に向かう、その煮詰め方や適切な具体的例示などなど、教えをいただくことが無数にあります。
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