『婦人公論』1500号(記念特別号)に「主婦の再就職」の記事を見る

   

『婦人公論』は2018年8月28日で1500号を迎えました。1916年(大正5)年1月に創刊され100年の歴史を重ねました。『主婦の友』『婦人倶楽部』が家庭の主婦向けとされていたのに対し、『婦人公論』は当初から「現代婦人の卑属にして低級なる趣味を向上せしめる」を目標に、エリート層をターゲットにしていました。この時代の日本の女性といえば、法的には無能力者と位置づけられ選挙権もなく、男性に依存して家の中で生きる以外、経済的自立もできず、セクハラやDVも当たり前という時代でした。そんな女性たちの先導役として『婦人公論』がありました。

同じく中央公論社の『中央公論』は1887年の創刊で、明治以来、近代日本の知性の泉ともいわれて130年の歴史をかざっています。私は若い頃、車中で『中央公論』を読んでいる人(男性)をみるとそれだけで「素敵だな」と顔を覗き込んでいました。どんな職業の人かなとか、どんな気持ちで記事を読んでいるのかなと推測していました。自分でも読もうとしましたが、あのボリュームには辟易でした。

「主婦という第二職業論」のこと

私が『婦人公論』に最も影響を受けたのは、1955年(昭和30)『婦人公論』誌上に掲載された石垣綾子の「主婦という第二職業論」でした。石垣氏は、女性は結婚すると職業を捨て、家事労働に専念する。それでは人間的な成長が止まってしまう。職業は持ち続けねばならない。主婦だけで生きている女性は寄生虫である、と批判したのです。戦前戦後を通じて4半世紀をアメリカで過ごし(そのころアメリカでは主婦の再就職が進む)、戦後の日本に新しい女性観を紹介したものです。女性の意識向上を強く説き、これからの日本の『女の生きかた』の方向付けをした論述だったと思います。私の最初の著作は、竹中恵美子編著『現代の婦人問題』での第二節家事労働論でした(創元社1972年)。家事労働を云々するより保育所を増やすことだということをいっています。

私の10代後半は先の見通しのないものでした。進路を決めともかく目先の受験勉強をすればいいのに、女性は結婚したらもう自分の人生はないのも同じなのだと鬱々としていました。自分の生き方を見つけられたのは、安い夜行汽車で東京の無認可保育園を見学してからでした。東京都江東区蟻の町の「ありんこ保育園」と東京都北区の「労働者クラブ保育園」を訪ねました。「そうだ!保育園がなければ自分でつくればいいのだ。そうすれば仕事はずっと出来るのだ」と納得したのでした。そして実際に大阪市内で8番目の無認可保育園が間に合いました。なんと「ありんこ保育園」といいます。

その後私の人生は、女性の再就職支援をすることになりました。それから40年を経て、今や女性活躍推進法や働き方改革などと叫ばれ、女性は出産や子育てで仕事を中断しなくてもいいかのような論調がはびこっています。女性のM字型就業形態はMの谷底部分はなくなりつつあり、制度は整っているのに利用しない女性がいるかもしれないが、といわんばかりです。再就職支援など不要になったのでしょうか。

今なお「主婦の再就職支援」は全く不十分

ところが『婦人公論』1500号には、「主婦の再就職を応援するリカレント教育」が特集の一つになっています。リカレント教育(学びなおし教育)は欧米ではごくポピュラーなものだが、日本でも「人生100年時代」を背景に近年注目されている、と書かれています(p34)。アメリカやカナダ、イギリスなどなどではコミュニティのカレッジが、いつでも、どこでも、だれでも、安価に、丁寧に再就職・人生のやり直しを応援しています。日本は女性が当たり前に生きることを阻害したままで、女性に働け、産め、輝けと無理難題を押し付けています。日本の政策は半世紀遅れています。

2018年8月6日の報道にあるように、東京医科大学の不正入試では女性受験者の点数を抑制し、合格を阻んできたのです。合格者は男子141人、女子31人(合格率21.9%、女性医師比率先進国最低21.1%)。理由は「女性は子育てで仕事を辞めるから」、ということだそうです。「そんなこと当たり前でしょう。成績通りなら女性ばかりになっちゃう。どこの分野でもやっていることよ」、とタレント女医もおっしゃる。女性の再就職支援を急ぎましょう。本当に!(参考:雑誌『婦人公論』が100年を迎えました)

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