フェミニズムとわたしと油絵(2013~2023)(その9)

   

やっと原稿を出版社に入れました。原稿を書き始めて1年ぐらいかかりました。本のタイトルは正式にはまだ決まっていません。きっと出版発売の直前に決めると思います。いつもそうです。諸般の事情(売れ筋、世間の風向きなど)を考慮して、3つぐらいの候補から、いろんな人の意見を聞いて、エイヤーと決めます。今のところ、仮題は「フェミニズムとわたしと油絵」となっています。このブログで、第7回と第8回目に「フェミニズム・アクティビスト金谷千慧子のプロフィール」として連載させてもらいました。これは著者略歴の続きにもう少し、わかりやすい金谷千慧子の生きざまも記述したいと思って原稿にしたものです。この度のブログは、なぜ、今までの著作と全く異なる分野(今までは「女性と労働」「働くこととジェンダー」などが多かった)で、油絵やフェミニズム・アートの分野で文章を書こうとしたのか、それも人生、もう終わりに近づいている頃に、まともなものが書けるのかどうかという懸念もありながら、書き始めたのかを知っていただくために、著作の「はじめに」の部分をご紹介しようと思います。

「フェミニズムとわたしと油絵」(はじめにより)
ゴッホに始まって
私は趣味で絵を描いて、余生を過ごしている高齢女性です。いくら大げさに見積もっても芸術家と称する実力などありません。しかし、足腰が衰えながらもキャンバスに向かっているときこそ、「人生最高の時間だ」と思えるのは、幸せなことかなと思っています。子どものころからゴッホ(Vincent Willem van Gogh:1853-1890年)一筋でした。大胆な色彩やタッチによって自己の内面や情念を表現したゴッホの作品は、お抱え絵師ではない貧しい生活(絵が売れない)にも関わらず、自分の描きたいものを描いているという姿に感銘しました。近代の自己表現としての絵画はゴッホから始まると確信しています。それ以前の時代では、スキルに長けた絵師が注文主の依頼(支払い)で注文主の意向に沿った絵を描いていたのです。絵というのはそういうものだったのです。ヌードを所望されれば、ヌードを、肖像画をご希望なれば肖像画を描いたのです。注文主が権力者(皇帝や首領など)であればあるほど、大人数を抱えた絵師の工房などが選ばれるのです。
ゴッホは、生存中は全く絵が売れなかったといわれるように貧乏でした。しかし自分の将来の職業(牧師)についても悩みながら、当時のことですからそれほど選択肢があるわけではありませんがやはり絵に執着しました。それにヌードはほとんどありません。デッサンに少ししかありません。ヌードは多くは注文主のご意向によるからです。
ヌードの画題をまえに
私の場合は、合わせて10数年、3人の師に教えを乞いながら油絵と向き合ったことになります。再開してからは10年経ちました。毎週の教室では3か月ごとぐらいにヌードモデルが登場します。他の月は着衣でした。描く対象は全て女性です。私は人物描写の訓練を経ずにここまできているので、やらねばならない、いいチャンスなのだと思いながらも、一方で内心では、ヌード絵画に対する嫌悪感と闘っていました。それでつねにキャンバスをあと2~3枚持ち込んで、テーマのヌードと他の対象(花の絵が多かった)を同時並行で描いていました。
講評が終わるやすぐに、ヌードは着衣に変えてしまうことが多かったです。また女性のヌードを描くことが、第一級の絵を描くことなのだという教室の雰囲気にもずっと違和感がありました。また視られる女性、被写体にされる女性に対して、描く男性たちの真剣なまなざしにも違和感がありました。絵画は「視ると視られる」の関係から始まるとよく言われますが、そこには一種の視姦行為さえ感じます。それが何よりも気分がよくありませんでした。自分が辱められているという感覚でした。
しかしモデルの女性たちは、堂々としていて、さながら舞台でオフェーリアを演じているように、たのしげでもありました。
仕事リタイア後描きつづけた10年
仕事をリタイアして、油絵を再開して10年が経ちました。この10年で、今までの作品は押し入れに入りきらず、生活圏にもはみ出してきました。このあたりでもう一度押し入れから取り出して、私の生涯を通して応援していただいた方々の前に出し、報告とお礼の展示をしたいと思いました。
そしてもやもやしたままだったヌード絵画への気持ちにも、少し決着をつけようと小文を書きつけることにしました。私は美術史の研究や、フェミニズム・アートの知識も少なく、読みごたえということでは不十分だと自覚しております。それでもこの機に今までの「趣味の女性画家」の‘もやもや’をある程度解決し、躊躇しながらも、もう先に進みたいと思っています。これからの展望を目指すフェミニズム・アートにどのくらい近づけるでしょうか、それとも近づけはしないかもしれません。以前からあちこちに書き散らしていた文章も集めて、手を入れて少しまとめてみました。どうかしばらくお付き合い下さいませ。

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