熱海まで足をのばしました。―MOA美術館とART 2022 OLYMPIA展
2022/07/18
東京都美術館での研究会(デッサン研修)を終えて、こだまに乗り換えて40分、熱海につきました。湯の街「熱海」は初めてです。熱海といえば「寛一お宮」のメロディーが浮かびます。寛一が怒りに任せてお宮を蹴飛ばしたという松の木はまだあるのだろうかなどと思いながらホテルを探しました。
尾崎紅葉の間
金色夜叉(こんじきやしゃ)は、明治30年(1897)~36年(1903)までの7年間、読売新聞に連載された小説で、尾崎紅葉(慶応3~明治36年)はこの作品で熱海を全国バージョンにしました。
ご存じのストーリーは、一高(東大)の学生、間貫一(はざまかんいち)は鴫沢宮(しぎさわみや)と許婚の関係にあったのですが、宮は貫一を裏切り、金持ちの男と結婚します。というか弟を洋行させるため親の意向で、別の男と結婚することになるのです。貫一は熱海の海岸でその話を聞き、怒りに震え「来年の今月今夜(1月17日)、僕の涙で必ずこの月を曇らして見せる!」と宮をけり飛ばし、復讐のために高利貸しになります。しかしこの有名なシーン、けり倒されるほどの暴力をうけるのは、果たして女性の側にあるのでしょうか。そこから話し合いをすればいいのに。なんとでもなるし、変化を起こせる話ではないのでしょうか。やっぱり100年以上前の家制度の中の男女の関係なのですよね。
この小説は執筆中に作者が死亡したため未完成のままでしたが、尾崎紅葉の病没後、熱烈な読者の求めに幾人かの作家が書き継ぎ、貫一とお宮を甦らしています。金色夜叉は、英国の女性作家バーサ・M・クレー(Bertha M.Clay)、本名シャーロット・メアリー・ブレイム (Charlotte Mary Brame1836-1884)の『Weaker than a Woman(女より弱きもの)』の翻案であることがのちに判明しているそうですが、もしそれが本当なら、その話題に興味がわきますね。熱海の起雲閣には名だたる作家たち(山本育三、志賀直哉などなど)が、長期の滞在で小説を執筆したことが解説されていました。「春風」の間は尾崎紅葉の間とされていて、貫一とお宮のこけしも飾られていました。
MOA美術館で葛飾北斎の冨嶽三十六景(四十六図)と歌川広重の東海道五十三次をみる
エスカレーターでエントランスに向かうメインロビーからの大パノラマ
「MOA」って何の略かと思っていたらMuseum of Art なのだそうです。「Mokichi Okada Association」ともある。そんなことかとちょっとがっくり。
創設者岡田茂吉(おかだもきち1882-1955年)は、彼のコレクションを基盤に、国宝3件、重要文化財67件(2019年現在)、重要美術品46件を含む約3500件を所蔵していました。絵画、書跡、工芸、彫刻等、日本、中国をはじめ東洋美術の各分野にわたっています。
エントランスから美術館本館までエスカレーターで移動します。これが何のためなのかわからなくて長いエスカレーターに躊躇しました。約60mの高低差があり、総延長200mにおよぶ7基のエスカレーターが設置されており、エスカレーターの壁面や天井は照明が刻々と変化し、色彩のグラデーションを楽しむことができます。
メインロビーからは、初島や伊豆大島、房総半島から三浦半島、伊豆半島まで180度の大パノラマを眺望できます。
「冨嶽三十六景」は、当時の富士信仰の盛行を背景に、斬新な構図や輸入品の化学顔料べロ藍を用いた鮮やかな発色で人気を博しました。歌川広重(1797~1858)は、はじめ歌川豊広の門人として役者絵、美人画を描きましたが、天保4年(1833)頃、版元竹内孫八が刊行した「保永堂版 東海道五十三次」では旅の情景や自然と融合した庶民の暮しを生き生きと描き出しました。描写力はほんとにすごい。展示方法が改善されて、ガラスがまるで存在しないかのように光らず、とても見やすくなっていました。
神奈川沖浪裏
東海道五十三次(保永堂版) 日本橋 朝之景(前期)
2022 OLYMOIA展(起雲閣にて)
話題の展覧会は起雲閣でやっていました。日本と海外合わせて2450の作品が集まったということです。なんといっても賞金が1位/金賞賞金1千万円、2位/銀賞200万円、3位/銅賞100万円と明記されているのがびっくりでした。どんな作品がこれらの賞金に輝くのかとても興味がありました。そしてこの展覧会が従来の権威的ではない画壇を形成していくきっかけになるのかにもとても興味がありました。話題の審査員はどんな作品を選定するのだろうか、興味は尽きぬものがありました。
アートオリンピアのコンセプトは、HUB・Excavation・Practice の3つです。HUBは才能あるアーティストを発見し、相応しい場所へ紹介すること。Excavationはグローバルアーティストとなる人材の発掘することで様々な分野の審査員が審査することで、グローバルアーティストとなる人材の発掘すること。Practiceはアーティストの海外進出や文化交流が生まれ、アーティスト同士が次世代に向けた新たなアートの創出に繋がることを最終目標とするということです。
①作品を画像で応募することで、出品料を従来の半額とし、応募者負担を軽減し1次審査通過作品80作品が最終審査に進みます。
②各方面の美術関係者の審査員を招聘し、1次審査、最終審査を行う。自身の作品を評価してもらう、数少ない機会の一つとなります。
③公平、透明性のある審査のため完全な公募制を採用し、審査員は全作品を点数制で採点。審査員の合計点数の上位作品が最終審査に進みます。
④多数の表彰:1位賞金1000万円をはじめ表彰総数300名、広くアーティストを支援する表彰内容となっています。
⑤若手アーティストの支援:学生部門を設け、学生賞として5作品を選出します。若いアーティストを支援するため、アートオリンピアでは「全応募者部門」のほかに「学生部門」を設けています。学生応募者は自動的に「全応募者部門」と「学生部門」の2部門同時エントリーとなります。
感想
1 応募作品が小さいサイズだったことにまず驚きました。100号や130号が暗黙の応募最低サイズになっているのが普通ですが、力仕事のように大きなサイズのキャンパスを振り回すだけでもエネルギーを消耗してしまうのが実際のところです
2 「学生賞」という部門を設けていることがとてもユニークだと思いました。若手を応援するという試みが如実に出ています。
3 審査委員賞というのが設けられていて、女性審査員2名による特別賞が決定されていた。とてもユニークだと思いました。
4 審査の公平性を必ず保ちながら、新しい美術家たちを育つ場になると感じました。入賞者は男女比ほぼ同じだと感じました(お名前だけからの推測ですので正確ではありませんが)。本来女性の入賞率が低いことこそ、公平な審査の是非を問うことになると思います。
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