2024年夏、世界は選挙の季節―東京都知事選 「石丸伸二氏165万票」の持つ意味、私もひとこと
「石丸ミラクル」「石丸旋風」といわれるもの、それは選挙を取り戻したこと
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2024年7月7日に行われた東京都知事選挙では、前広島県安芸高田市長の石丸伸二氏が165万票の得票を記録しましたが次点でした。無所属で政党の推薦や支援を受けずに立候補した候補としては異例の大量得票です。「石丸ミラクル」です。石丸氏は安芸高田市長時代からYouTubeでの積極的な発信で知られていました。私も結構、釘付けになっていた一人でした。ネット選挙開始から今年で10年、今回の大量得票はネット時代の象徴ともいえる現象で、「石丸ミラクル」「石丸旋風」「石丸ショック」といわれるに由縁です。
この現象は、こま切れや過大・過激表現が多いネット情報やYouTubeにより大量の得票を得た(だからいい加減な人物だという噂もあり)ということではなく、この大量得票の背景には、実直な選挙演説の積み重ねがありました(全部で240回、驚異的)。選挙演説での言葉はよく練られており、戦略と戦術を駆使した誠実な政治家ぶりがよく見えていたのだと思います。政策についてもHPやYouTubeをみればよく理解できました。「生意気」「一過性の人」などと切り捨てるのではなく、投票の重要性に気づかされた人がなぜこんなに多くなったのか、考え直す必要があります。
旧態依然たる選挙制度はこの際、考え直す必要があると思います。顔写真だけのポスターを張るだけで(今回はそれも不十分だった)、候補者選択に必須の討論を闘わす場は設けられないのです。選挙のポスターなどは廃止し、冊子の配布や、いつでも見えるYouTubeによる政権放送、テレビ討論をもっと頻繁に行い、街宣車による名前だけの連呼は禁止するべきではないかと思います。現状のままでは、ますます選挙が形骸化し、国民は選挙に関心を持てず、政治を身近に感じられず、政治に期待せず、あきらめて投票に出向かなくなるのです。結果的に政治の腐敗・貧困につながってしまいます。
さかのぼること30年余、「失われた」ともいわれるこの間、なかでも安倍政権を中心とする10年間で、日本の政治・経済・国力は、決定的に世界の進展に後れをとり続けています。1人当たりGDPを見ると、2024年度日本は世界第24位です。安倍政権スタート時点では12位でした。国連関連の国際ランキングでも、ジェンダー格差、幸福度などでも下がりっぱなしです。これほど国際的地位が低くなったのは、安倍政権下のことなのです。石丸伸二氏いうところの「政治が三流の国は、経済も三流なのです」という結果になっています。長期にわたって日本は、事なかれ主義に徹しリスクを回避してきました。改革のスピードが超スローで規模も小さいのです。成果も上がりません(異次元の少子化対策と宣言したのは誰?)。
そして、国民の間に政治への「諦め」がはびこってしまいました。政治に夢が描けず、尊敬しがたく、汚く、勝手にやりたい人がやっているだけと飽きられ、また避けられてきました。日常会話に政治はタブー、「一部の熱量の高い人がやっきになっても、それってエネルギーの無駄使いだよ」と冷笑して過ごすのです。国民が選挙に興味を失い、政治への希望を失うと、政治は腐敗します。権力者は監視されず好き勝手できます。ゆがんだ権力と腐敗した政治では、マスコミもともに腐敗します。
世界報道自由度ランキング70番目の日本
政治腐敗は、大きな権力の一局であるマスメディアにも責任があります。選挙はマスコミの報道の在り方が大きく影響します。「世界報道自由度ランキング(World Press Freedom Index)」は、国境なき記者団 (RSF) が、毎年1回発表している指数で、評価の基準は、政治的内容、経済的内容、法的枠組み、社会文化、安全性で各項目100点で評価しています。日本の評価は今年2024年は70位です。G7の中で最も低いのはもとよりですが、このランキングが始まった2019年は67位でしたが、次第に下降しています。日本の前後は69位が「コンゴ」、71位は「ロコモ」(1975年フランスから独立)です。
日本の状況については、「伝統の重みや経済的利益、政治的圧力、男女の不平等が、反権力としてのジャーナリストの役割を頻繁に妨げている」と批判しており、2012年の第2次安倍政権の発足以降にジャーナリストに対する不信感が広がったとしています。70位の理由として、「記者クラブの存在」や「特定秘密保護法」等を問題として挙げています。特に記者クラブは問題で、政府と既存の大手マスコミとの距離が近く「両者が連携している」との指摘があり、フリーランスや外国人記者が記者会見への出席や政府高官へ接触が困難な現状は、「あからさまな差別だ」といっています。また、世界的な傾向については、ランキングを構成する5つの基準のうち政治的な背景に関する指標が世界全体で悪化したとして、国際社会でジャーナリストを保護する政治的意思が欠如していると指摘しています。「世界報道自由度ランキング」の1位は、ノルウェーで、2位にはデンマーク、3位はスウェーデン、4位フィンランド、5位オランダ、6位がエストニアです。G7では米国が55位(前年45位)で、日本に次いで低い順位です。同NGOは米国に広がる偽情報が「国民がもはや誰を信用してよいのか分からない状況を生み出している」と懸念を示しています。
(朝日新聞digital2024年5月3日宋光祐記者https://eleminist.com/article/3483)
日本の投票率は世界158位
国民の政治への無関心と諦めがはびこると当然投票率は下がります。この状態では、人々は未来への希望や改革の意欲をなくし、政治は堕落していくのみです。
世界200カ国と地域で行われた選挙の投票率を公表している国際NGO「民主主義・選挙支援国際研究所」の公表データ(2019年)によると、日本の投票率は、200カ国中158位という低さです。別の調査、グローバル・ノート/ 国際統計・国別統計専門サイトによる世界170カ国以上の議会選挙投票率 国別ランキング(2023年度)でも日本は133位です(韓国は90位)。
日本の国民(特に若者が)が選挙に対していかに興味関心が低いか、政治をあきらめているのかが、この数値によってわかります。将来を担う若者の投票率が低いと、年配の政治家が年配者向けの施策を打つという結果になります。本来もっと目を向けるべき教育投資や、子ども向けの政策が薄いまま放置されます。次世代へ不幸が先送りされるだけになってきます。投票率が低ければ低いほど、現政権の固定票ばかりになり、政治の改革や変化は起こらなくなるのです。
自民党政権がいまも続いているのは、ただ単に「低い投票率」に支えられているだけといわれます。いつだったか、「(選挙に関心のない有権者は)寝てしまってくれればいい」という発言がありましたね(00年6月大分県の選挙遊説中。森喜朗氏)。自民党が惰性で続けている「長老衆による税金の浪費と不毛な権力争い」を断ち切り、「最低賃金の大幅上昇」(分配比率を変える)や「ジェンダーの完全平等」など、今までとは違う政策に踏み切るときが来ているのです。
そして今大きな問題になっているのが、デジタル革命、IT革命といった「イノベーション」の趨勢に日本がどんどん遅れてきているということです。この背景には、積極的に基本的な研究開発に乗り出してこなかったからだといわれています。選挙の投票についてもdigital化を実現している国だってあるのです(エストニア:投票だけでなく税金もネット。税理士という職業はなくなったと言っていた2019年のこと)。ネット投票などを真剣に検討すべきです。
今や、失われた30年のそのあとを歩き始めたかもしれない日本にとって、今後は失われるだけでは済まないことでしょう。急速な政治変革への切り替えが今、差し迫った時期に来ていることをこの度の東京都知事選挙での石丸伸二氏が突き付けたのだと思います。この失われた30年、しかしその間に、石丸氏のような国際的にも通用する新しい政治家が出現しているのは、やはり時代の進歩ということでもあるのでしょうか。ちょっと複雑!
「石丸ショック」「石丸ミラクル」から、先へ進もう
政治に興味を持てない人たち、政治をあきらめてしまった人たちに石丸伸二氏は励まし続けました。「あきらめずに自分を信じて投票してみようよ、ひょっとしたら東京は動くかもよ、きっと動くよ。皆さん一人ひとりは動かす力があるよ、変えられるよ」と。信頼できる(と思える)人からの励ましと応援がが、今回の大量の投票行動となりました。一人ひとりにエンパワメントを促したのです。「やってみようという意欲と“できる”という自信」を取り戻させたという点に、何にも代えがたい大きな成果があったと思います。「私に投票してください」「清き一票を」では、大きな投票行動にはならないのです。信頼できる人(仲間)から、自信と意欲をもって行動することを呼びかけられ、促されることが重要なのです。それがエンパワメントです。有権者は「意欲と自信を取り戻した」のです。今回の石丸氏の「動かそう東京を、そして日本を変えよう」は、考えぬかれた良いスローガンだったと思います。ここを基点に私たちは主権者として政治を変える行動に進みましょう。私たち一人ひとりは、投票の権利の他にも表現の自由や集会の自由など、さまざまな政治参加の権利を持っています。それらを的確に、適切に行使できるように、情報提供も含めたトレーニングや主権者教育が急がれると思います。
そのために必要なこと
1) 横並びの人間関係の確立
「日本には議論する文化がない」とよく言われます。言葉を闘わす習慣がない、訓練される機会がない、常に上から下へ決定事項が申し渡されるだけとよく言われます。この風土が職場でのパワハラやセクハラの土壌になりがちです。上下ではなく、横並びで「言葉」でやり取りするために重要なことは、家庭でも、コミュニティでも、教育の場でも、企業社会でも、すべての分野で「人は皆、互いに対等」という基盤・前提が必要です。ここがスタートです。この土壌が議論できる文化を醸成します。誰もが対等になれる場づくりが何より重要です。
2)アサーティブ・トレーニング(Assertive Training)
もう一つの側面として、「日本には議論する文化がない」とよく言われる背景に、言葉を闘わす習慣がない、訓練される機会がないという日常生活のために、意識的にロールプレイなどでアサーティブ(自己主張的な言語活動)を習得することが有効です。アサーティブ・トレーニングでは、ロールプレイなどをやりながら、3つのタイプの表現方法を実践しながら、③の「アサーティブ」な主張の仕方が、良好なコミュニケーションに極めて効果的だということを実感し、体得するものです。
① 攻撃的な表現をしがちな「アグレッシブ」
アグレッシブは攻撃的な表現をしがちな主張です。自分の意見が正しいと思い込み、相手の状態や相手の意見を無視して、自分の価値観を押し付け、優位に立とうとするタイプです。また言葉には出さずとも「相手が意見を聞いてくれないから悪い」と他人を責めたり、陰で文句を言ったり、相手の意見を無視したり、邪魔をしたりするのもこのタイプにあたります。意見や態度をはっきり表現するのはいいとしても、自ら周囲との軋轢や誤解を生んでしまいます。
② 自己表現が苦手な「受動的」
自分よりも相手のことを優先し、自分の言いたいことを言わず、結果として相手の言うことを聞き入れてしまうタイプです。優しく穏やかな人が陥りやすく、人から言われたことを断れなかったり、自分の考えや主張をする際もはっきりせず、曖昧な表現をしてしまうため、相手に意見が聞き入れられず、ストレスを抱え込んでしまいがちになります。また相手の言い分を受け入れてしまうために、「相手が決めたことだから」と責任感を持ちづらくなってしまいます。優しさや穏やかさは相手を不愉快にしないという良い面もありますが、仕事の効果では評価されづらく、ストレスを抱えてしまいます。
③ 相手と自分のバランスがとれる「アサティブ」
両者のよい部分をバランスよく兼ね備えたのがアサーティブ(積極的)です。相手の気持ちや背景を配慮したうえで、自分の主張・考えを伝え、場の空気を大切にします。状況に応じて、言葉や態度など表現をうまく使い分けることができます。「きちんと伝えられた」「相手にわかってもらえた」ことへの満足感を体得できます。
3) 石丸伸二さんの「カリスマ的ではない」「管理的ではない」リーダーシップ
石丸伸二さんは『皆さんの意見を募集しています。もし都知事選で当選すれば、それを元に都政を運営します』と都政へ参加を呼びかけました。これは従来型のカリスマ的、管理的なリーダーシップではなく、ボトムアップ型というか、新しい変革型リーダーシップです。『皆さんの集合知を元に都政を刷新する』と有権者に約束したわけです。従来型リーダーシップでは、目標達成能力、集団維持能力を人望などより優先させます。ところが新しいリーダーシップでは、ぶれないビジョンを持ち、メンバーの性格や特徴を活かして、成果をあげていく、意思決定プロセスにメンバーを参加させ、メンバーと同じ目線で信頼関係を築き、チームをまとめるリーダーシップです。新しいタイプのリーダーには、傾聴、気づき、説得、先見力、倫理観や価値観への忠実心や情熱などが必要です。組織や社会の変化には、変革型リーダーシップへの改変が欠かせません。
4) 政治を身近に感じる能力を取り戻す
日本は今、投票率が下がり、政治への関心が薄らぎ、「諦め」がはびこっています。政治との距離が遠くなっています。政治に夢が描けず、政治を尊敬しがたく、汚いものであるかのように避けられています。一言でいうと、政治が遠くなっています。ここで少しフェミニズムに触れていきます。諸外国の女性学(フェミニズム)のテキスト(書籍)は、まず初めに「女性と政治」から始まります。ところが日本の場合には、最後か、もしくは項目から抜け落ちているのです。女性の個人的生活上の様々な課題が政治と深くかかわっているという視点が欠けているとも言えます。女性学を担当し始めたころの私には(1980年初頭)、なぜ日本では「女性と政治」が乖離しているのかわかりませんでした。しかし北欧諸国を訪ねると、政治が市民のごく近くにあるのを感じることが多々ありました。たとえば「タクシー代をぼられてしまった」と私が言うと、すぐに政治問題として善処するよう動いてくれたり(スェーデン)、ガソリン代の値上がりについて討論会を開くつもり(勤務先の遠・近で通勤費が変わるのは不公平だから)と言っていたり(デンマーク)、訪問企業のプレゼンターが、「私、次回の選挙はフェミニズム政党から立候補しようと思うの」と訪問者の私たちに話しかけたり(スェーデン)。なぜかと聞くと、「政府機関の女性管理者比率は50%を超えてるのだけれど、民間企業はまだ40%台なの」と答えてくれたりなどです。政治と日常生活が近いのです。
アメリカでも1960年代以降のフェミニズム運動は、「個人的なことは政治的」(The personal is political)というスローガンで始まりました。個人的な息苦しさなどは政治とのかかわりが深く、そこで解決しなければならないという言葉です。そのためには、政治を個人のレベルにまで取り戻さねば、解決しないわけです。北欧のデンマークやスウェーデンでは、若者の選挙・政治参加意識が高いことで知られていますが、幼いころから学校・家庭で政治を身近に考えるよう習慣づけることも重要です。
最後になりましたが、『「石丸ショック」「石丸ミラクル」から、先へ進もう』で言いたかったのは、フェミニズム理論と実践の普及です。フェミニズムは女性が差別を克服するためのものとして世界的に広がってきましたが、フェミニズムは女性だけの問題だけではありません。この世で弱者として割の合わない立場に立たされている者の人格復権宣言であり、あらたな社会への参入行動です。私も女性学担当者、フェミニストの一人として、長年、1)横並びの人間関係の確立、2)アサーティブ・トレーニング(Assertive Training)、3)「カリスマ的」「管理的ではない」、「変革型リーダーシップ」トレーニングを実施してきました。
そして、アメリカで1960年代以降のフェミニズム運動のモットーとなった「個人的なことは政治的」(The personal is political)を心に刻みながら、すべての人のエンパワメント(自分の持てる力に気づき、意欲と自信をもって行動することによって自分ができること増やしていくこと)を自分の喜びとしてきました。
この度の石丸伸二さんの「ミラクル」がフェミニズと共通の基盤を多く含んでいることで、私自身も共感しながら応援していました。これからも「石丸ミラクル」がその先に進むよう、微力ながら応援していきたいと考えています。
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