授業のはじめに 法女性学と自分の振り返り
2014/10/06
日本での女性学の講義のはじまりは1970年代の後半、お茶の水女子大学からだといわれています。私の場合は、京都精華大学(その頃は短期大学)の1981年からで、その後、同志社大学、関西大学、甲南女子大学、梅花女子短大で、関東では中央大学で2001年から2007年でした。なかでも関西大学が最も長くて、1985年から現在も続いています。そのなかで、関西大学での今年度で担当が最終になる「法女性学」の講義内容を振り返り記録にとどめておきたいと考えています。
最初は家族の問題
これだけ長くやっていますと「女性学」のなかでも様々な分野を担当したことになります。1980年代は「家族」でした。この場合は大学の科目では特殊講義という位置づけです。必須科目でないケースが追いのです。私の出版物では『世界の家族―女の居場所はやっぱり家庭なのか』(芸林書房)、『女と男の女性学』(柘植書房)があります。最初に著作に加えて頂いたのは『現代の婦人問題』(竹中恵美子著 創元社)で、その中では、家事労働論や主婦について書いています。1980 年代、この頃は国連女性の10年の運動の中で、スウェーデンやデンマークなどの北欧の女性たちの仕事も家庭も子育ても政治も平等があたりまえ、という発言や活動に衝撃を受けたショックがそのまま授業態度になっていました。世界を比較して日本の女性の実態を知るということでしょうか。国連の会議に出席していたNGOやNPOという活動を知ったのもそのころでした。
一般教育科目として約半数の大学に定着して
「女性学」は女性のエンパワメントにつながる理論武装という発想で始まったのですが、やがて女子学生も男子学生も広く人権学習の一環として知識を得る一般教養科目として定着していく1990年代を迎えますと、男子学生の受け止め方が授業の進め方を左右するようになります。「男を敵に回した学問なんてありえない!フェミニズム宗教だ」だなんて態度で、教師についても胡散臭いといわんばかりの目で見つめる集団が突出しますと、もうそれは授業は成り立ちません。
一般教育科目は、何人もの教員(当然男性が多い)のリレー講義で実施されますが、男性教員にとってはお荷物とも思える女性学を自分の生き方と重ね合わせて講義するというのは、そもそも不可能ですから、ますます女性学の質の低下を招きます。そこで男女ともに矛盾のるつぼになっている「性」のあり方というところで焦点を合わさざるを得なくなります。『ジェンダーとセクシュアリティ』(嵯峨野書院 共著)や『ジェンダーで学ぶ社会学』(世界思想社 共著)などはそのころの出版物です。
女性史(三代の女性史)を語る
歴史とは、男性による権力争奪という戦争の年史でしかない、といフェミニストからの問題提起があります。女性学をやるのに歴史を女性の視点から紐解かないわけにはいきません。第二次世界大戦後の歴史を作ってきた一人でもある私が、三代の女性の歴史を女性の視点から解釈してみようとたぐり寄せたのが『日本民衆と女性の歴史ー女たちの三代を語り継いで』(明石書店)です。これはとても好きな本です。B5版の2頁で一つの項目を語るという形式になっています。写真も豊富に入れました。でも大学の授業でというより最初は高校の副読本としてということだったのですが、書き手としては、その後の使われ方はよくわかりません。著者自身がコラム代わりにふんだんに登場しています。
ヌード絵画と女性学
これは未だまとまっていません。「女性と仕事ジャーナル」(金谷千慧子 発行)に書き綴っています。京都精華大学時代に藤枝澪子先生に励まされながら、世界のヌード絵画にみる女性の描かれ方研究会を続けてきました。なぜ女は描かれる側なのか、なぜ描き手は男ばかりなのか、なぜ女の描き手がいないのか、なぜ女は裸で、男は着衣なのか、宗教はなぜ女に被せものをつけさせるのか、性や文化、宗教や社会組織は、なぜ女性の生き方を狭め選択肢を少なくすることを以て社会発展としてきたのか。男だってそんなに自由を満喫していないよ、実際は、等という外れた議論はとりあえず置いておくとして、です。
働く権利は譲り渡すことができない
なんといっても私の心底、片時も離れないテーマは、「女性にとって、働く権利は譲り渡すことのできないものである」というものです。人口の半分が自分で食っていけないことを基本とする政策は、ホンモノではないし、改善の余地ありだと思います。
「働く権利は譲り渡すことができない」を前提として、どのような働き方をするか、どんな働く意味付けをするか、もちろん「勤務」だけない、アントレプレナなども含めてどんな仕事が可能かを、弾力的に、柔軟に、しかし譲れないところは譲らずに、選択し、創造していく時代をつくるのが最大の夢です。
「働く権利は譲り渡すことができない」に関わる出版は、多少多くありますね。均等法をめぐる攻防の時代に法律解釈を巡って論争をした共著で『女子労働論』『新女子労働論』(有斐閣選書)、『主婦の再就職ノート』(創元社)『女性のパートタイム労働―日本とヨーロッパの現状』(国際交流基金・新水社)『女の起業が世界を変える』(国際交流基金・啓文社)等があります。挿絵もとても気にいっているのに『わたし・仕事・みらい』(嵯峨野書院)があります。これは多くの大学で、テキストに使って頂いたと聞いています。また中央大学出版部からの『企業を変える女性のキャリアマネージメント』『未来社会をつくる女性の経営マネージメント』の2冊は、未だまだこれからの私の現役人生と歩みを共にする本です。さて少し出版物の紹介が多かったかも知れませんが、自分をつくってきたもの、責任を持って生きている心髄のところは、はやはり著作に集約しているようにも思います。
次号からいよいよ「法女性学」の講義が始まります。
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