お正月がきた!

   

お正月が来た朝、私はとてもワクワクしていました。もう起きようかなと首を伸ばしながら、きちんと畳んだワンピースを横目で見つめます。新しくおろす下駄も並んでいます(そのころは下駄ばきが普通でした)。お正月だから着ることになった赤と黒の縦じまのビロード風のワンピースです。それほど温かくはないのですが、勤務で大阪に残っている父親が手に入れて持ち帰ってくれたものです。私たち家族は石川県の父親の故郷へ疎開していました。正月で父親も帰ってきました。お餅もつきました。外はまた冷たい雪ですが、私の気持ちは何の不自由もなく満足していて、穏やかでした。朝からワンピースを着て、そのあと昼からお宮さんへ行くときには、椿の模様の銘仙の着物を着せてくれるかもしれないのです。なぜって母親は2・3日前、肩揚げをほどいて、私に「着てみなさい」と着せてみたのですから。きっとそうです。お宮さんにはだれか来ているかな。


つい、この間までの身近に近づいてくる戦禍の恐怖や不安感は、もうすっかり忘れてしまっていました。今からもう78年も前の戦後すぐのお正月のことです。
数か月前の3月、豊中市内に住んでいた私たちは、大阪市内の大空襲に、もうビビりあがっていました。玄関をあけたまま大阪市内の方を見つめていました。深夜だというのに、夕焼けの空のように真っ赤に燃え上がっていたのです。あの空の下に多くの人が逃げ惑っている。足がわなわなと震えました。
「やっぱり、もうダメや、疎開しよう」という結論になりました。1945年3月13日の深夜から未明にかけて、米軍B29が274 機、大阪の空を埋め尽くすように飛来し、1733トンもの焼夷弾を投下しました。この「大阪大空襲」では、被災家屋は13万6千戸を数え、約4000人もの命が奪われたのです。このあと8月14日まで大阪市内は第8次までの空襲を受けました。大阪市内は焼野原と化したのです。
それまでにもわが家でも、庭に2畳ほどの防空壕を掘って、「空襲警報発令!」の呼び声がかかるたびに逃げ込んでいました。防空頭巾をかぶり、電灯を消したかと掛け声をかけ、お米をもって防空壕へ逃げ込みます。何度も何度も。夜となく昼となく。もうこのまま死んだ方がましという人もあると聞きました。縁側のガラスがビリビリと赤く光り、音を立て割れるのかなと思いました。母親は国防婦人会だといってモンペに頭巾をかぶって防火訓練に行きました。バケツリレーや延焼を防ぐために今ある建物を壊すのだとか言っていました。その後、私たちのこの家も空襲でなくなりました。緊迫した毎日でした。
今もガザ地区では、子どもたちだけでなくすべての人が故もなく殺害される危険と不安にさらされています。ウクライナでも戦禍が続いています。故もなく人を殺すことを「戦争」などとだれが命名したのでしょうか。誰に許されて、こんな暴挙を何千年と繰り返しているのでしょう。子どもには、安心できる環境こそが成長の土台です。


ブログを書き終わった途端の地震でした。2024 年1月1日16時10分でした。犬が大声で吠えるのと頭がふらふらするので、地震だと気づきました。大急ぎで犬を抱っこして、テレビで、地震の震源地が石川県能登沖だとわかりました。津波がすぐ来るという。昼間の時間でまだよかったのかもしれない。逃げてほしい。火災が起きている。規模が大きい。

石川県能登地方で最大震度7を観測したこの地震で、石川県は6日、死者数が126人になったと発表しました。死者数の増加は連日止まらず、連絡が取れない安否不明者も210人に上っています。災害発生から5日たっても、人的被害の全容も分からない状態が続いています。ああ、辛い1年が始まります。

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