新しい4月、今月の1枚から ー「その昔、山は火に燃えて~与謝野晶子」

   

グループでの展覧会が終わりました。私たちの絵画教室の指導者が持っておられる教室のメンバーが集まって、阪急茨木市駅にあるギャラリーで、3月28日~4月2日まで絵画展がありました。私も参加させていただき、2点出品いたしました。その中の1枚について、すこし深堀りしてみたいと思います。
出展作品は、与謝野晶子が1911年発行された歴史的雑誌『青鞜』の創刊号に寄せた詩「そぞろごと」の中の第1節「山の動く日来る」をイメージしたものです。 「その昔、山は火に燃えて」という火山の様子と縄文土器の「遮光性土器」の女性像を組み合わせたものです。
                               金谷千慧子画 『その昔山は火に燃えて』 F15号

 

1  与謝野晶子は大阪堺の出身
私もずっと与謝野晶子が大好きでした。尊敬してきました。高校生の頃は、教科書でのロマンチックな短歌しか知りませんでしたが、興味は次第に評論や小説や評論集,自叙伝まで広がっていきました。大胆な行動力に感服していました。『源氏物語』の現代語訳(全巻)は、夏休み中にこれだけを読破するのに没頭しました。谷崎潤一郎の『源氏物語・現代語訳』と比べたりして至福の時間を過ごしていました。なかでも私が感動したのは、1918年(大正18年3月)にとりかかり、完成まじかだった原稿が、1923年(大正15)関東大震災で1枚残らず焼失してしまったときの与謝野晶子のすさまじいまでの活力です。晶子は落ち込み続けるのではなく、毅然として新たに原稿を書き始めたのです。その執念に似た活力に感動しました。今でもパソコンで原稿が一瞬で焼失してしまうことが度々起こるのですが、そのたびに「与謝野晶子も書き直したんだ。こんなことぐらいなんてことないよ」と自分に言い聞かせて、原稿を書き直しています。
与謝野晶子は1878年(明治11)、大阪府堺市の和菓子商「駿河屋」の三女として生まれました。家業を手伝いながら文学会に入会し、文学少女として成長しますが、歌の師である与謝鉄幹と知り合い、22歳で上京し鉄幹と結婚します。そして毎年のように出産を繰り返し、12人の子どもの母となります。12人ですよ。2人じゃないんですからね。どれほど子育てと仕事の両立が厳しかったか。想像を絶するものがあります。

2 「山の動く日来る」は日本のフェミニズム宣言
「山の動く日来る
かく云へども人われを信ぜじ
山はしばらく眠りしのみ
その昔において

山は皆火に燃えて動きしものを
されど、そは信ぜずともよし

人よ、ああ、ただこれを信ぜよ
すべて眠りし女(おなご)
今ぞ目覚めて動くなる」

与謝野晶子の「山の動く日来る」は、日本のフェミニズム宣言です。この詩は、1911年(明治44)歴史的な雑誌『青踏』の創刊号(写真下:表紙絵は高村智恵子)に寄せた9ページにわたる「そぞろごと」の冒頭部分です。山を動かすのは、私たち女性自身なのです。そして今がその時だ、といっています。このメッセージは今なお、私たち女性の心に響いてきます。諸外国でも英語で「MOUTAIN MOVING DAY」として歌われています。

                                                 雑誌『青鞜』創刊号表紙

3 縄文時代の再発見
芸術家であり、民族学者でもあった岡本太郎(1911年生まれ)は、縄文時代の土器に出会ったことで、日本美術史を書き替えるほどの影響を受けました。岡本太郎は縄文土器の造形美を再発見し、縄文文化ブームの火付け役となりましたが、その後も縄文時代の歴史的再検討は、今なお続いています。これまで日本の歴史では縄文時代は軽視されてきましたが、近年は昔と違って、縄文時代人は「豊かな狩猟採集民」として描かれるようになりました。また縄文時代は、従来の定説よりもはるかに長い時代が存在したといわれています。少なくとも1万数千年あったということです。その後の日本の歴史が2000年ちょっとですから、ほんとの日本の歴史は、かなり昔から存在したようです。
●食べ物が豊富で、戦争がない時代、男女平等な社会
まずこの時代は、気候が穏やかで植物の繁茂し動物も多くの種類がいたようで、食べ物に苦労はなかったそうです。そ時代の人骨には戦役での傷跡がほとんど見当たらなく、戦争を知らない平和な時代が長く続いたようです。
さらにこの時代は、人間関係は平等であったのです。例えば,埋葬を見ると,地域によっては長老格の人は尊敬されて丁寧に葬られている例があるものの,そのような人を別の場所に特別に隔離して葬ることはなかったそうです。生活の道具や住む家にしても,誰が使うものもみな同じもので、5~6個の家がひと固まりになって集落になっていて、子どもが小さいときは、夫婦と子ども単位ですが、子どもが年ごろになると女性の家、男性の家で暮らすようです。男女の差別はなく、女性は出産という大きな役割があるので尊敬されており、狩り以外のほぼすべての仕事(土器つくりも)は女性の仕事であり、むしろ女性の役割の方が大きかったのです。女性が差別されることはなかったのです。逆に男性の方が低かったとさえいえます。男性は遠くまで狩りや漁などに出かけますが,収穫には当たり外れが多く、不安定要素があります。それに比べて女性はすでに始まっていた稲作や畑仕事などで主導的立場を握り,家庭の中では重要な役割をもっていました。保存技術が確立していないこともあり、作物も動物も取り過ぎることはなく、適度の量しか確保しなかったようです。蓄積した財を奪い合う殺戮とは無縁なわけです。その日暮らしとも言えますが。平和で戦争をせず、食べ物が豊富で、ゆとりをもって生活できる時代、そして、人が平等に扱われる。男女の差別がない社会っていいなと思ってしまいます。しかし個人の自由なんて感覚はないでしょうね。さらに研究がすすむと現代に生かせることが多くあるのではないかと思います。
●お祭り大好き
縄文人は,現代人などより,ハレの日とケの日(ふだんの日)の区別を大事にし,大きな祝祭の時期には,部族の全員がその日のために用意した晴れ着に身を飾り,おいしいご馳走を持ち寄って遠近から集まったようです。定期的・周期的にフェスティバル(お祭り)があったのです。その場が縄文時代の拠点集落であり無数にあったようです。大きな祭り、小さな祭りで人々が出合い、コミュニケーションをとり、物物交換なども行われました。こうした集まりの場は,平素離れて暮らしている人々が,情報を伝達しあい,品物を交換しあう市場でもありました。まつりはとても大切な交流の場でした。そして若い男女が伴侶を見つけるチャンスでもありました。
●「遮光性土器」はなんのために
縄文土器は弥生式土器と違って、時期により地域により,形や模様は千差万別で、一つとして同じものはないといっていいほどです。このことは地域ごとに独自の文化を持っていたし、作成した人の個性があふれていたことを意味します。縄文土器は量産体制がない時代だけに、手の込んだ模様や形が多いのです。女性を称える土器が多いのも特徴です。なかでも縄文時代に作られた人型の焼き物で、ゴーグルを着けているかのような特徴があるのが「遮光器土偶」です。その制作意図やモデルは未だ解明されていません。目にあたる部分がイヌイットが雪からの反射光線を防ぐために着用する遮光器(スノーゴーグル) のような形をしていることからこの名称がつけらました。ほとんど目だけで覆い尽くされた顔は、現在では、遮光器をつけているのではなく、目を誇張した表現だともいわれています。デフォルメされた身体の表現と全身に覆うように施された縄目文様が装飾効果を発揮しています。大きな目とは対照的に、耳、鼻、口は小さく、両肩の張りや、腰のくびれが誇張された胴体には、短い手足がついています。
私は、今回この作品を作成するために、遮光性土器のレプリカを購入しました。私のそばにいつもこの遮光性土器人形が鎮座しています。縄文土器の多くが、乳房や臀部、太ももを誇張した女性像であることから、安産、子孫繁栄のための多産の祈りのため、または五穀豊穣を祈願する農耕儀礼に使われたという説も有力です。

4 遮光性土器(女性2人)と燃えている山
今回ご紹介した絵は、遮光性土器(ピンクと草色)の女性2人が、燃えさかる山脈を背景に、与謝野晶子の「人よ、ああ、ただこれを信ぜよ すべて眠りし女(おなご)今ぞ目覚めて動くなる」を私たちに伝えている絵なのです。
もっと縄文時代を知りたい
もっと女性が生きやすい社会をつくりたい
地球を破壊するほどに、ものを作り過ぎない、ものを所有しすぎない
社会に組み替えていきたいという気持ちを込めて描きました。

今さくらは満開です。
太古に思いを馳せてみるのもさくらに浮かれる春の一興かもしれません。

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