イラン「女性のヒジャッブ(ベール)」はどうなるのか? 世界は今や、選挙の季節―イランも日本も、アメリカも
イラン大統領選挙、改革派のペゼシュキアン氏の勝利確定!
世界中が選挙の季節です。イランの選挙は大統領だったライシ師が5月、ヘリコプター墜落事故で死亡したことに伴って行われました。7月5日の決選投票でベゼシュキアン氏は、「女性のヒジャッブの未使用を取り締まる街頭での道徳警察に反対」を示し、「大統領に当選したらこれをなくすることを保証する」と宣言しました。ここから女性たちは、改めてこの決選投票に「ヒジャブからの解放」めざして大活躍したのです。
前髪を隠さなかったマサ・アミニさん(22)の事件
2022年2年前の9月、イランの首都テヘランで、道徳警察に逮捕されたマサ・アミニさん(22)が警察車両の中で殴られ、その後意識不明に陥り、3日後に亡くなりました(警察は心臓発作だと)。マサ・アミニさんは前髪を適切に覆っていなかったとして拘束されたのです。警察への批判が高まり、アミニさんの葬儀では多くの女性が髪を覆うスカーフ(ヒジャブ)を脱ぎ捨てて抗議しました。その後、女性たちは、アミニさんの死に抗議して市庁舎に、街頭に、繰り出しました。それから2年間で女性たちの意識も次第に変わっていったといいます。
www.bbc.com/japanese/62944807
「私は好きなものを着る」―自分のことは自分で決めさせて
街に繰りだした女性たちは、もっと自分たちの権利を主張してもよいのではないかと気づかされたといいます。宗教心にしたがって自分の意思でかぶっている人も多くいるでしょうが、彼女たちにとって大事なのは、ヘジャブをかぶるか、かぶらないかではなく、それを強制されるか、自分で決められるか、ということなのです。「自分のことを自分で決める自由」が奪われていること、そして、それが女性だけに被ることを強いられていることが理不尽だとして憤っているのです。女性たちが、そこに気づいたということです。「私は好きなものを着る」―自分のことは自分で決めさせてという主張は、ほんとに人間としての「肝心、要」のことだと思います。しかし女性たちの動きが活発になるにつれて、当局の弾圧は日々激しくなりました。政府はデモ参加者への公開処刑を繰り返すなど、取り締まりと弾圧(拷問)強化を図り、女性たちは、また、「自分のことを自分で決める自由」への希望をなくし始めていました。
ノルウェー・ノーベル委員会は、「2023年のノーベル平和賞をイランの人権活動家ナルゲス・モハンマディ氏(51)に」と発表
そんなさなか、ノーベル委員会は、女性人権活動家モハンマディ氏に「イランでの女性への抑圧と闘い、すべての人の人権と自由を推進するために闘った」とノーベル平和賞の授与を決めました。彼女は、2003年のノーベル平和賞受賞者、シリン・エバディ氏らが設立した人権団体「人権擁護センター」の副代表で、女性やマイノリティー、死刑囚の人権擁護などのためにも活動してきました。現在も、イランの首都テヘランにある悪名高いエヴィン刑務所で10年の懲役刑に服しています。
www.bbc.com/japanese/67027352
現在服役中のモハンマディ氏は、これまでに13回逮捕されています。有罪判決を5回受け、命じられた量刑は計31年に及びます。154回のむち打ち刑も言い渡されています。モハンマディ氏は昨年12月、抗議デモで拘束されたイラン人女性たちが受けている性的・身体的虐待の悲惨な詳細をつづった書簡を、獄中からBBCに送っています。
改革派ペゼシュキアン当選に女性たちの一票
イランの大統領を決める決選投票が行われ、欧米との対話を進める改革派のペゼシュキアン氏(元保健相)が7月6日、次期大統領に決まりました。ペゼシュキアン氏は、アメリカによる経済制裁の解除を目指し、核開発などで欧米との対話を進める考えを示しているほか、2022年からの大規模デモにつながった女性の髪を覆うヒジャブの取り締まりを否定しました。
www.bbc.com/japanese/articles/cw4yg22ke0go
勝因は女性票だった
選挙結果はペゼシュキアン氏が53.6%を獲得、44.34%のジャリリ氏を破って当選しました。ペゼシュキアン氏の勝因の1つは投票率が上がったことです。第1回選挙の投票率は40%と国政レベルの選挙としては史上最低だったのです。その背景には国民の間に「投票しても権力体制は変わらない」という“あきらめムード”がまん延しているためです。ところが、決戦投票では投票率が49.8%にまで上昇しました。「あきらめムードから、もしかしたら変化が生まれるかもしれないという期待感に変わった」のです。最も期待されたのは女性のヒジャブ(スカーフ)強要の解決です。前大統領ライシ政権はヒジャブ強要に反対するデモを徹底的に弾圧、治安部隊の発砲などでこれまでに約500人が死亡、2万人以上が逮捕されています。そしてイラン議会は023年9月20日髪を隠すヒジャブの着用規定に違反した女性に厳罰を科す法案を通過させました。この「ヒジャブ法」は、3年間の試行期間を経て施行されるところまで来ていたのです。法案によると、公の場でヒジャブを適切に着用しない女性や、「胸から下、あるいは足首から上の体の部位が見える服装」の男性は罰金を科せられ、違反を繰り返すごとに刑罰が重くなりますまし、有名人や企業が従わない場合の罰則も盛り込まれており、ヒジャブ着用、不適切な服装に対しては、禁錮10年以下の禁錮が定められています。
いよいよこれから、この法律をどうして無効化するのか、今こそは新大統領と保守派の激しい権力闘争が予想されます。女性たちの力が試されます。
「物言う女性が男性も変えた」-イランに起こった女性へのリスペクトが効力を発揮したのです。また驕り高ぶった保守派は国民の怒りと不満をみくびり、女性たちの力を誤算したのです。
(この度の「イラン「女性のヒジャッブ(ベール)」はどうなるのか?を書くにあたってはそのほとんどをBBCのニュースに頼っています。ほかに朝日新聞2024年7月5日版、毎日新聞2024年7月7日版、日経新聞2024年7月7日版を参考にしました。次のBlogも、女性と選挙、女性と政治を続けます)
何年か前、グループ展でイスラムの女性がベールをつけている出展作品がありました。髪がほとんど出ている絵で観光客を描いているかしらとも思いました。「前髪を隠さなかったというだけで殺されるという過酷な社会を生きて、抗議している女性たちが多くいるのに」という気持ちが私にはありました。でも作者は私が「上から目線で、自分の作品にケチをつけていると思ったらしく「絶交する」と告げてきました。小学生の頃のケンカを思い出しました。やはりフェミニズムの流れを理解することは、趣味の絵画の世界にだって基本的な知識だと思います。
参考:(金谷千慧子著「フェミニズムとわたしと油絵」-描かれる女性から表現する女性へ 明石書店2023年9月刊 第4章「ベール」は文化の問題か女性差別か。4-2イランでのベール抗議運動)
赤い絵シリーズ(その2) A、B、C
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