フェミニズムとわたしと油絵(2013~2023)(その3)
趣味の油絵を再開して10年になるのをきっかけに、「フェミニズムとわたしと油絵」というというタイトルで人生のまとめをしているとブログで報告いたしました。今回はその第3回目になります。その後、ほぼ1冊分の文章化を終え、出版社も決まりました。第2回のブログでは、いま突き当たっている「フェミニズム」や「ジェンダー」という言葉に対する世代間の受け止め方の違いや「フェミニズム運動」「ジェンダー平等」に対する理解の違いをどう克服するかという、特に日本での課題でした。今回の第3回目は、イランで起こっている女性とベールの問題です。目次では、第4章にあたる「女性のベールの文化史」の部分です。
「引き剥がすこと」と「隠すこと」、いずれも女性への人権の侵害
絵画においてはネッサンス期以来、「Fine art」としての最上位の位置を確保してきたのは、女性のヌード絵画です。社会生活をする上に衣服は極めて重要なツールであり、またどんな衣服を身に着けるのかは個人の自由の問題であるはずなのに、衣服を剥ぎ取られ、裸体をさらけだすというのは、完全に無力化。無防備の状態に置かれるということです。これは女性の人権侵害であり、女性への暴力です。一方で、女性にベールを被せて、顔だけでなく全身を隠してしまうこと、そしてハーレム」という女性だけの空間から出さないこと、男性の監視下におき、教育の権利を剥奪すること、就業を禁じ、自立できなくするということは、これまた女性を完全に無力化、無防備な状態にすることであり、女性の人権の侵害であり、女性へ暴力です。
だから「引き剥がす(ヌード)」と「隠す(ベール)」という一見、両極端のように見えることも、女性の人権や生き様を認めないということでは全く同じなのです。男性の奴隷になるということにほかありません。「隠すこと(ベール)」と「引きはがす(ヌード)」ことは、女性を人間として認めない、人間としての権利を奪うという意味では同じだと思います。
イスラム教のコーランでは女性は「美しいところを隠しなさい」といい、女性にベールを被せます。女性は「美しい」故に男に誘惑的だと称して、ベールやハーレムで女性を隠し、さらに近時では、特にアフガンにおいて、全身を覆うブルカの着用を義務付け、女性から教育や職業を剥奪しています。服装の自由ということでは、「女性の服装にまで踏み込むな!」「男性は自分の服装だけにしろ」といいたいところでしょうね。大きなお世話というしかありません。
イランでベールのつけ方で道徳警察に逮捕された女性が死亡
イランの首都テヘランで、道徳警察に逮捕された女性が数日後に死亡するという事件が引きがねになり、イラン全土において、また世界中で女性にベールを被せることに対しての抗議運動が起こっています。マシャ・アミニさん(22)は2022年9月13日、頭髪を覆うスカーフを適切に着けていなかったとして道徳警察に逮捕されました。目撃者によると、アミニさんは、警察車両の中で殴られていたといいます。その後、意識不明に陥り、9月16日に亡くなりました。警察はアミニさんが心臓発作に襲われたと主張していますが、彼女は全く持病もなく健康であり、急死するはずがないと家族が言っているそうです。アミニさんの葬儀は9月17日行われましたが、大勢の市民が詰めかけ、警察への抗議の場となりました。ヒジャブを脱ぎ捨てて抗議する女性たちや、「独裁者に死を」と抗議する姿も見られたそうです。また、アミニさんの死に抗議して市庁舎に押し寄せる抗議者もおり、治安部隊の発砲のなか、逮捕者や負傷者が増えているということです。日を追うごとに抗議デモは広がっており、抗議デモによる死者は50人を超えているそうです。https://twitter.com/Shayan86/status/1571148937788293129
イランでは1979年のイスラム革命後、女性は「イスラム的な」控えめの衣服を着るよう法的に義務付けられています。実際には、全身を覆うチャドルか、頭髪を覆うスカーフと腕を隠すマントを着る必要があるのです。近年はヒジャブ義務化への反対運動が何度か繰り返されてきています。特に、服装規定違反だとされた女性に対する道徳警察の厳しい取り締まりをきっかけに、ヒジャブ強制への反対が高まっています。イランのライシ大統領は、「イスラム社会における組織的腐敗の促進」を取り締まるといっています。多くのイラン人は、最高指導者アリ・ハメネイ師が弾圧の原因だと感じています。そういえば私が1985年の世界女性会議(ナイロビ大会)で、ベールの下に何を着ているのですかと質問をして、小さな花柄のブラウスとズボンを見せてくれたのもイランのお役人の女性でした。
アメリのアフガン女性への支援
イランの事件の影響は、アメリカへの批判にもなっています。アフガン国民がタリバンの支配下で女性の権利が著しく制限されているにも関わらず、この問題を放置させたまま、アメリカは米軍を撤退させました。このたびアメリカは国連総会開催中の9月20日、官民パートナーシップ方式で、アフガンの女性の自立を支える仕組みを打ち出しました。有力企業や慈善団体と連携し、アフガンの内外の女性の起業、社会進出、教育を促す方針を出しています。早く実現にこぎつけられることを願っています。(乞うご期待! フェミニズムとわたしと油絵2023年発行予定!)
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