アベノミクスに欠けているもの
2014/10/23
1 アベノミクスは「女性の活躍」が中核
アベノミクスの成長戦略の柱は「女性の活躍促進」である。ただその宣伝効果ほどには実質は伴わないと感じている。安倍首相は4月に成長戦略スピーチで、「女性の活躍は成長戦略の中核である」といい、「育児休業は3年間」「待機児童は5年でゼロにする」「上場企業1社に女性役員を1人」といった政策を発表した。その効果は絶大であった。「女性の活躍促進」という大テーマ自体に異を唱える人々はほとんどいない。ただ具体的な施策は今一つ明確ではない。
6月には閣議決定で、「日本再興戦略―JAPAN is BACK」で、さらに踏み込み、数値目標を決定した。
趣旨
出産・子育て等による女性の離職を減少させる。また指導的地位に占める女性の割合を増加させる。成長戦略の中核は、女性の中に眠る高い能力を十分に開花させ、女性が活躍できるようにすることである。
大きな政策目標
「M 字カーブ問題」の解消に向け、2020年の女性(25から44歳)の就業率を、73%をめざす。これは2012 年から約5ポイント向上になる。
2 アベノミクスに欠けるもの
そもそも、女性の就業環境を整備すべきなのは当然ことである。それを「女性が活躍すると経済成長が見込まれる」といういいわけのような刺激剤で、鈍感な世論を喚起せねばならないとは、女性の労働権がいかにないがしろにされているのかと情けなくなる。
その上この提唱に、幾分刺激されてもなお、女性が働くと家事・育児・介護がおろそかになり、その経済的マイナスは果てしなく甚大であるという主張さえある。
それでもなお今回の安倍首相の主張が成功してほしいという願うものであるが、そのために必要で、不可欠なことが多くある。
(1)日本には職業教育・人材育成の環境がない
企業が人材教育に力を入れない時代になっても、それに代わる職業教育・人材教育の環境がない。最も緊急を要するのは、女性の再就職支援である。実に70%近い女性が第1子出産を機に職場を去る。その後の再就職には企業からの職業教育も得られず、地域の支援もない。再就職や転職等の人生のやり直し、労働移動がいつでもできるよう、そんなセーフティネットとしての職業教育機関、就職支援機関が身近なところに必要である。
具体的なモデルとしては米国の70年代から大幅に増加し女性のM字型就業形態の解消に貢献したコミュニティカレッジが有効である。20世紀におけるアメリカ最大の発明であるといわれる。新しい産業に必要なスキルの創出にもつながる。生涯にわたって、誰でも、どこでも、いつでも(オープン・ドア方式)のコミュニティカレッジが必要である。人材育成、人材移動こそが、潜在成長率を高めるための王道である。
(2)労働条件の差別は人権問題であるという視点が必要である
労働条件の差別は人権問題であるという視点が必要である。賃金や労働条件の処遇は「企業の必要に応じた処遇」から「働きに応じた処遇」に転換しなければならない。パートの賃金はいつまでも「世帯単位」の補助賃金という発想ではなく、「個人単位」へと変化しなければならない。パートの処遇は、個人の「しごと」の能力に応じて決定されなければならない。年金や税制度の改革にもその視点こそ重要である。
「個」の確立は家族のあり方が多様化する中で、さまざまな労働者が納得して 働けるための条件である。欧州諸国のように性差別を人権の問題ととらえ均等待遇原則とポジティブアクションを取り入れ、積極的な男女平等の推進を真剣に取り組んでこそ、女性の活躍がほんものになる。
(3)規制緩和の矛先は競争心をあおり、脱落者を増やすために利用するのではなく、働く環境の整備のために利用することである
例えば待機児童対策として、「お金のかからない」規制緩和を採用されず、補助金を大幅に増額する「予算で解決」という道が選ばれた。
先進欧州各国は女性の活躍のために基盤を整備している。例えばフランスではときのシラク首相は3つの政策を実現した。①女性が働くことで負担が生じないようにする ②無料の保育所を完備する ③3年後に女性が職場復帰するときは、その3年間、ずっと勤務していたものと見なし、企業は受け入れなくてはいけない、などである。
オランダでは「均等待遇を徹底するパート労働差別禁止法」を制定した。
(4)多額の予算をGDPにカウントするだけでは女性の活躍は進まない
今後多額の補助金が、予算化されることになる。保育園の補助金を大幅に増額する「お金で解決」という道が選ばれた。女性が活躍する企業への助成制度や税制上の措置という資金の動きも活発になるようである。資金を出し、それをGDPにカウントし、経済成長の成果として誇るだけでは決して進まない。
(5)女性労働の差別的3つの現状の解決を
日本の女性労働には大きく3つの差別的特徴を持っている。それは以下の3つである。」
第1 M字型就業形態(働き盛りの年代が働けない)
第2 女性の管理職比率の低さ
第3 女性が多数を占めるパートタイム労働の待遇の悪さ
- すべての教育レベルに男女ともにキャリア教育を徹底する
- すべての子どもに質の高い保育園を用意する
- 男女の賃金格差を撤廃するための法規制をする
事実上ある女性に厳しい年齢制限をなくす - ポジティブアクションで登用格差をなくし、女性の管理職比率を50%にする
- パートタイム労働の格差をなくしフルタイム労働との均等待遇の原則を貫く
- 女性に対する税・年金の不公平をなくす
- 企業教育の促進、女性や若者の起業に無担保融資制度を確立すること
日本では1986年に男女雇用機会均等法が施行されたが、大半の国内企業では真の平等など夢物語にすぎない。2020年までに管理的地位にある女性の数を30%以上にするとの国際的約束も2013年になっても、これもまた夢の話になってしまっている。
日本の出生率は下がり続け、高齢化が進み年金制度を圧迫している。日本の人口が2055年には約30%減少すると予測されている。安倍政権が主張する女性の労働環境整備は男女平等の問題ではなく、経済上の死活問題でもあるのだ。ただ、日本企業の男性上司たちがこれに耳を傾けているかどうかは定かでない。
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